マツダのデザインと「玉川堂」の匠の技が共鳴する

2015.10.16

Kodoki Winecooler

ミラノサローネの話題を呼んだ「魂動」とは?

この春、イタリアで開催された国際家具見本市ミラノサローネにおいて、マツダは独自のデザイン哲学である『魂動−Soul of Motion』のコンセプトの下、日本の伝統工芸とコラボレーションしたアートピースを発表しました。世界的なデザインの祭典に、日本の自動車メーカーがあえて日本古来の匠の技と異色のタッグを組んだのはどうしてなのでしょう。その理由を求めて、出展作のひとつ、『魂銅器』(写真上)を手がけた新潟県・燕三条にある玉川堂に伺いました。

玉川堂は金属加工の名産地である燕市で創業約200年を誇る老舗工房です。一枚の銅板を鎚で打って作り上げる“鎚起銅器”の技法によって、実用的な器でありながら美術工芸品のような美しさを併せ持つ製品で知られます。

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昔ながらの畳の工房では、そこかしこから銅を叩く鎚の音が聞こえます。基本となる道具は鳥口(当て板となる鉄棒)と金鎚ですが、鳥口は器の各部に合わせて複雑に細分化され、金鎚にしてもほとんどが職人の個人所有で、長さや太さは自分に合った形状が修業のなかで培われます。もちろんこれを使いこなすのは、熟練の手であることはいうまでもありません。

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ひたすら叩き、焼きなまして生まれるアート 

一枚の銅板を叩いていくと、みるみるうちにひとつの形が立ち上がってきます。力加減や叩く位置といった微細な調整によって、二次元から三次元になっていく不思議さ。叩くと金属は延びるように思いますが、逆に叩くことで縮まっていきます。そして本来は柔らかい銅も叩くと硬くなるため、これを火炉で真っ赤になるまで熱し、水に漬けて冷やします。この工程は鉄を固く引き締める “焼き入れ”に対し、銅を再び柔らかくするための“焼きなまし”で、銅は冷めても柔らかさを維持するので、再びこれを叩きます。

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叩き、焼きなます。作るものにもよりますが、この工程を20回ほど繰り返し、いよいよ完成します。美しく形づくるだけでなく、急須のような口のついた複雑な形状も継ぎ足すことなく1枚の銅板から生み出すというから驚かされます。それはまさに200年の時によって磨かれ、熟成を遂げた日本の伝統技法なのです。

マツダの『魂動』に共鳴した『魂銅器』はこうした職人の技と精神を受け継ぎつつ、現代アートとしての存在感を湛えます。楕円形のフォルムの表面には亀甲模様が施され、多彩かつシャープな面が組み合わされます。見る角度によって形そのものの印象を変えるばかりか、光を受けその反射によって異なる表現をするのです。

工業製品と伝統工芸の垣根を越えて

製作に当たって用意されたのは銅の塊。これを3人の職人が交互に叩き、板状にすることから始まりました。かつて銅の板材がなかった時代の技術の復活であり、道具も保存されていたものを手入れし、使いました。老舗の玉川堂でも途絶えていた技術であり、玉川堂の七代目当主の玉川基行さんはこの作業を通して、昔の職人と精神を通じ合い、時空を超えた会話ができたと語ります。

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「その叩く姿が美しいんですよ、若手職人の打つ音が工房中に鳴り響いて。これはモノづくりの本質であり、その行為自体が“魂動”だと感じました。職人自身もそうだし、作品を見た誰もが魂を衝き動かされると思います。私は伝統と伝承は少し違うと思います。伝承はただ同じことを繰り返すことであり、伝統というのは革新の連続であり、日々革新しなければなりません」

こうして完成した銅板を前に、作り手が重視したのは“スピード”でした。手がけた職人は語ります。

「亀甲の面ひとつでも何千回も打っていますが、細部で気に入らないからと手直しばかりしていたら全体のフォルムを崩してしまいます。金属の変化に耳を傾けて、なるべく少ない手数で一気に仕上げる。職人に必要なのは技術とスピードなんですね。普段は実用品を作っていますが、シンプルなものほど機能的であり、とくに手作りでは複雑になるほど出来が悪くなるように思います。用の美といいますが、それはアートも変わらないのでは?」

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マツダの『魂動−Soul of Motion』とは、動物が獲物をしとめるしなやかな動きやスピード感に着想を得て、無駄な動きを省き、切り取った一瞬の美しさを見出しています。それは職人が魂を込めて真剣勝負をする日本の伝統技法に通じ、今回のコラボレーションはそのモノづくりの原点にもう一度立ち返るという意思にほかなりません。玉川堂の『魂銅器』にはそんな工業製品と伝統工芸という垣根を越えた、新たな価値観と日本の精神性が込められているのです。

 

取材・文/柴田 充

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