庄司紗矢香さんインタビュー/「言葉では言い表せない感情の一番繊細な部分を、音楽は伝えられる」

2017.01.18

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名実ともに日本を代表するヴァイオリニストである庄司紗矢香さん。
彼女の演奏に一度でも接した方ならご存知だろう。その小さな身体からは想像もつかない圧倒的な音量。そして表情豊かで説得力のある、常に音楽の本質に迫ろうとする迫真の演奏の素晴らしさを。

普段はパリを拠点として世界中を演奏旅行で駆け巡る庄司さんが日本に滞在することは多くない。そんな中、3月に決まったNDR エルプフィルハーモニー管弦楽団(ハンブルク北ドイツ放送交響楽団)との共演に向けての取材としてお話をうかがう機会を得た。

目の前に現れた庄司さんは、小さく儚げな印象で、控えめな微笑みを湛えながらちょこんと座っていた。あの大きな音楽を紡ぎ出すその人と、目の前の庄司さんは同じ人とは思えないギャップがある。

「音楽家はみんな食べることが好きだと思いますよ、基本的に(笑)」

――今は年にどれくらいコンサートをやられているんですか?

庄司:一昨年(2015年)までは年に50回までに制限していました。でも、昨年は少し多くなってしまいました。また、今年から元に戻そうと。

――50回と言っても週1ペースでコンサートがあるわけですよね。それは大変。

庄司:はい。大変です(笑)。

――それ以外の日々というのは、そのためのレッスンとか?

庄司:準備の期間と、あとは時差調整とか。

――移動が大変ですよね。まさに世界中が舞台ですから。

庄司:そうですね。

――パリのご自宅で過ごせる時間も少ないのでは?

庄司:この1年はほとんどいられなかったです。

――大体ホテル住まいみたいな感じで?

庄司:そうですね。転々としています(笑)。

――そういう生活を20年近く。

庄司:考えると恐ろしいですね(笑)。

――ちなみにレッスンというのは、1日にどれくらいの時間、ヴァイオリンを触ってらっしゃるんですか?

庄司:本当に日によりますが、大体、平均して3~4時間ぐらいだと思いますね。新しい曲を勉強する時には集中して1日中弾いてることもありますし。それはもう可能な限りという感じになりますね。

――ヴァイオリニストの方ってずっとステージの上で立ちっぱなしだし、それが週1ペースとなると、かなり体力的にもキツい仕事ですよね。

庄司:そうですね。大変だと思いますね。

――それをずっと続けていくために、健康面で留意されていることなどは?

庄司:やはり食べるものには気を付けるようにしています。とりあえずどこにいても食べることというのが基本だと思っているので。

――食べることはお好き?

庄司:はい、好きですね。音楽家はみんな食べることが好きだと思いますよ、基本的に(笑)。私も大好きです。

――特に何が好きとか?

庄司:おいしいものは何でも好きですね。

――日本食がいいとかではなく?

庄司:そうですね。場所によっては本当にあんまりチョイスがない時もあるので。とりあえず出てくるものは何でも食べる、みたいな(笑)。でも、段々やはり、日本人としてのDNAがあるので、ごはんが大切だったり、定期的に味噌汁を摂ることが大切だったりとか、栄養のことを考えるようになりました。

――そのスタイルを維持するためにはダイエットとかも?

庄司:何も気をつけてないです(笑)。

――じゃ、体質的なもの? それはうやましい。

庄司:今までのところは。これからどうなるかわからないですけど(笑)。

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「音楽家としてではなく、ひとりの人間として生きたい」

――ところで、以前あるインタビューで、庄司さんが音楽家として普段心がけていることはという質問に対して「普通に生きること。音楽家としてではなくて、ひとりの人間として生きたいと思ってます」ってお答えになっていて。その「ひとりの人間として」という言葉がすごく印象的だったんですが…。

庄司:ん~。多分…その、言いたかったのは、作曲家もひとりの人間だったわけで。ベートーヴェンにしろバッハにしろ。いろんな問題を抱えながら、生きてきて、素晴らしい音楽を書いたわけじゃないですか。
演奏する側も、そういう色々なことを乗り越えたりとか、すべてのことが、経験としてあって、書かれた音楽の理解度が深まるんじゃないかなという気持ちもありますし。
あとはひとつやっぱり、先程の健康ということですが。健康って心から来るものが大きいと思うんです。そういう意味では、心の内側でのバランスを保つことが一番大切かなと思って。健全でいるっていうことが。

――なるほど。心のバランスの良さが、いい音楽のためには必要だと?

庄司:はい、そうですね。演奏していくというのは、解釈をするということと、実際に演奏活動をしていくという2つの面があって。解釈というところでは自分の経験のすべてがいい意味で肥やしになると思うんです。ほんとに、まぁ色々な良い経験も悪い経験もすべてが(笑)。
でも、やはり演奏をするということは、旅をしてステージに立って、そこで自分のベストを尽くすということで。それは、ある意味ちょっとアスレティックなスポーツ選手みたいな、その場ですべてを出さなければいけないということでもあります。
そういう意味で考えると、やはり心の健全というのが健康を支えていて、健康であることが大切だと。健康であればこそ、私は演奏にすべてを出せるっていう、それが基本かなと思っています。

――庄司さんは音楽以外のことでも、時間があれば美術展を巡ったり、油絵をお描きになるとか、あるいは読書や料理作りなどいろんなことをされているそうですが、そのあたりもやはり意図的に色んな経験をしていくことが音楽のために役に立っていくということなのですか?

庄司:う~ん…そこはどちらかというと、特に音楽のためにというよりは、自分の興味で。自分が生きていくうえで必要としている、栄養みたいな感じだと思っているので。

――音楽家じゃなくてひとりの人間として必要なことだと。

庄司:そう思います。

 

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