「大人の日本史」vol.2

奇祭評論家の杉岡氏が選ぶ、不思議すぎる日本の三大奇祭 〜 奇祭《後編》〜

2017.01.21

思わず人に話したくなるような、奇妙で、ちょっと生々しい日本史の裏側を紹介していく連載。日本人の思わぬ生態をえぐり出していきます。

前編では、「奇祭」の存在に注目し、長年多くの奇祭に参加して考察を続けてきた、作家で奇祭評論家の杉岡幸徳氏に、その誕生の歴史や意義についてお話を伺いました。後編では、いまも脈々と受け継がれる奇祭のなかでも、杉岡氏がこれぞと思う三大奇祭を紹介していきます。

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泥酔して意識を失った男性に素戔鳴命が宿る

「一つめは、秋田県の東湖八坂神社で毎年7月に行われる神事『牛乗り・くも舞』 です。この神事は、毎年7月8日から1年間にもわたって行われる『東湖八坂神社例大祭(統人行事)』のクライマックスイベント。泥酔して意識を失った男性を牛に乗せて町を練り歩くというものです。男性は意識がないため、牛の上でぐらつきながら周囲の人に支えられて進んでいきます。この牛乗り役は志願制で、一説には病弱な人が選ばれるとも言われています」

牛乗り役の男性は、日本神話に登場する天照大神の弟で、“荒ぶる神”とも言われる素戔嗚命(すさのおのみこと)なのだとか。神との媒介役になるには病弱な人間のほうが都合がよいということのようです。

(2)rd1700_kisai2写真(上)/ 意識をなくした「牛乗り」を支える、祭りの男性たち

「はじめにこの牛乗り役となる男性と、牛曳き、酒部屋親爺の3人が部屋にこもってある儀式を行います。この儀式は完全に門外不出で、地元の人も部屋の中で何が行われているか知りません。当の3人も、この儀式について人に話すことを禁じられています。そもそもこのお祭りは、八郎潟の豊漁と疫病退散を祈願したもの。おそらく、祭りが行われてきた夏に八郎潟で疫病が流行ったのでしょう。そして、東湖八坂神社の主祭神である須佐之男命を牛乗りに宿して町を練り歩き、疫病がなくなることを願ったのかもしれません」

尻を叩き、天狗とお多福が交わる

二つ目の奇祭は、奈良県明日香村の飛鳥坐神社(あすかにいますじんじゃ)で行われる「おんだ祭り」です。

「おんだ、とは『御田』のこと。古くから存在する正統なお田植え祭りです。はじめに青竹を持った“お多福役”が境内に現れ、背後からたくさんの人のお尻を青竹で思い切り叩きます。お尻を叩かれると厄払いになると言われ、子供から大人まで祭りに訪れた人たちの尻を叩きまくるのです。こうして騒ぎになれば、その年はより豊作になるとも言われています」

(3)rd1700_kisai2写真(上)/お多福が参加者たちの尻を次々と青竹で叩いていく

その後、信じられないような神事が行われます。翁・天狗・牛に扮した3人の男がお田植えの動作を行ったあと、天狗が竹筒を股間にあてて回転させ、ご飯の上に竹筒から液体(酒)をかける「汁かけの儀式」を行います。続いて、お多福が拝殿に寝転がって天狗と交わる「種つけの儀」を披露。交わった後にはお多福が股間を紙で拭き、その“拭くの紙”を観衆に投げつけるのです。この一連の儀式を、子供たちも親と一緒に笑いながら鑑賞します。

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写真(上)/ お多福と天狗による「種つけの儀」

「『おんだ祭り』に関する古文書は残っておらず、いつ誰が始めたのかは不明ですが、汁かけの儀も『五穀豊穣、子孫繁栄』を願うものだと考えられます。昔の日本人は、農作物の繁殖(五穀豊穣)と人間の生殖(子孫繁栄)を同一視していたのでしょう。江戸時代、鈴木春信によって描かれた浮世絵『風流艶色真似ゑもん』では、田植えをしながら性交を行う様子が描かれています。田植えと性交を結びつけて考えていたことがわかる一枚です」

杉岡氏によれば、中央アメリカのビビル族は種まきの前夜に必ず夫婦の交わりを持っていたし、ジャワでは稲の開花の季節に農民が水田で性交をする習慣があったといいます。古代ギリシャやローマでは、「種子」と「精液」は同じ単語で表現されていたとか。豊作を願う祭りで、性交の場面が演じられる習慣は、実は当たり前のことだったのかもしれません。

 

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