東京都庭園美術館で開催中「並河靖之七宝展 明治七宝の誘惑——透明な黒の感性」

2017.01.23

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究極の技と独自の美意識が生んだ、明治の美しき七宝

吸い込まれるような漆黒の背景に、数え切れないほど多くの色数で、超細密に花鳥風月が描き出された「七宝」。明治期に、有線七宝によって頂点を極めた七宝家、並河靖之(なみかわやすゆき)の作品です。

この度、彼の没後90年を記念し、1月14日から4月9日まで東京都庭園美術館にて、最初期から晩年までの七宝作品を一堂に会して紹介する世界初の回顧展「並河靖之七宝展」が開催されます。

写真(上)/ 藤草花文花瓶 並河靖之七宝記念館蔵

rd1700_(2)namikawa_02写真(上)/ 藤草花文花瓶の部分 並河靖之七宝記念館蔵

並河の代名詞ともいえる黒色透明釉薬の魅惑

そもそも「七宝」とは、銅や青銅など金属の下地の上に釉薬をおいて焼く金属工芸技術。なかでも並河は、細いテープ状の銀で描いた輪郭のなかに釉薬を流し込んで焼成するという、有線七宝の技術を好んで用いました。

rd1700_(3)namikawa_04写真(上)/ 菊紋付蝶松唐草模様花瓶一対 泉涌寺蔵

並河の作品の魅力は、その色数の多さや、目を凝らさなければ見えないほど緻密な模様にあります。色を左右する釉薬は熱を加えることで化学変化し、色が生まれます。そのためコントロールが難しく、色数も限られていました。並河は、こうした釉薬の色数を増やすために研究を重ね、非常に豊かな色彩表現やグラデーションを可能にしました。

また、並河の作品において象徴的ともいえるのが“黒の地色”です。この透き通った美しい黒を作り出している黒色透明釉薬は、彼の代名詞ともいえる釉薬。不透明だった釉薬を透明にする研究も行うことで、並河七宝の繊細な色柄をより引き立たせる釉薬を生み出したのです。

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写真(上)/ 菊紋付蝶松唐草模様花瓶一対の部分 泉涌寺

欧米人からも愛された、普遍的な美しさを持つ並河の七宝

明治期の七宝は、外貨獲得のための輸出工芸として欧米諸国に向けて作られていました。並河率いる並河工房の高い技術力と、独特の美意識によって生み出される繊細な色彩や模様の表現は、とくにアメリカのボストンやニューヨークなどの東海岸で人気を博しました。

明治の日本を旅したイギリス人写真家、ハーバート・G・ポンティングは、京都の工房で並河の作品を見たときの感想を以下のように述べています。

-彼が次々と箱を開いて、鮮やかな珠玉のような美術品を目の前に並べたとき、私は紛れもない名匠の前にいるのだということを、自ずと悟ったのである。
(ハーバート・G・ポンティング『この世の楽園・日本』1910年)

開国されたばかりの明治期に日本に訪れた外国人たちは、七宝にはじまる日本の工芸に感動し、母国への手土産にしたのです。しかし並河自身は、技術力によって内外に日本の権威を示す“日本主義的”な評価のために作品を作っていたわけではないといいます。

「明治の工芸に対してよく使われる“超絶技巧”という言葉は、並河の作品にも当てはまりますが、並河自身にとって重要だったのは、そうした技術の高さではなく、美しさそのものだったのだと思います。並河の作品が持つ、超絶技巧を超えた普遍的な美しさこそが、欧米人を惹きつけた理由ではないか」(館長)

 

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