街を変えていく、街とともに動いていく建築を目指す建築家、御手洗龍(後編)

2017.01.25

(2_1)rd1700_MG_7822「プレミアムジャパン・アートプロジェクト」の若手建築家の連載インタビュー。御手洗龍の2回目では、東北での復興プロジェクトのコンペ案や街頭につくるデジタルライブラリーの計画などを紹介しつつ、人の活動を通じて都市へと広がる建築について語ってもらった。

(2_2)rd1700_MG_7929写真(上)/ 御手洗龍の事務所には大型の建築模型がきれいにディスプレイされている。

震災後の何もないところで小学校をどうつくるか

御手洗龍が伊東事務所から独立して間もなくして、「陸前高田市立気仙小学校」のコンペがあった。東日本大震災で大きな被害を受けた陸前高田市に新しく建てられる小学校の設計コンペで、御手洗の設計案は惜しくも次点となった。

「伊東事務所には9年間いましたが、7年目までは伊東さんの建築の変遷のなかでは『せんだいメディアテーク以降』と呼ばれる時代です。自分もその時期のプロジェクトに関わりながら、ようやく建築とは何かを掴んだ気がしていました。ところが震災が起きて、もう一度建築の原点に立ち戻ることになった。伊東さんと一緒に釜石市の復興計画などをやりましたが、震災後の建築がどうあるべきか、よくわからないというのが正直な実感でした。それでこれまでの自分の歩みを含めて、もう一度建築を見直さなければいけないと思い、独立を決めました」

(2_3)rd1700_170120写真(上)/ 陸前高田市気仙小学校 Kesen elementary school in Rikuzentakata
地元の豊富な森林資源である杉の集成材を使用。内部は木材の質感を活かした空間で、湾曲した屋根を支える曲がり梁が親しみやすい表情を生んでいる。

建築が本当に必要とされている場所で自分に何ができるか。彼にとって「陸前高田市立気仙小学校」のコンペは、その問いに答えるものでもあったという。敷地は津波対策で10メートルかさ上げされた土地で、街全体が更地のような状態となっていた。

「何もないところに小学校を作るので、この小学校が街づくりの拠点になることが求められていました。しかもそこに通う子供たちは街の未来そのものです。その数少ない子供たちに学校という広い空間のなかでいかに安らぎや安心感を与えられるのかも、設計のテーマのひとつでした」と御手洗は語る。

建物は木造の平屋で、屋根は穏やかな波のように湾曲した面の連続でできている。木造平屋にすることで躯体のコストを抑え、工期も短縮することができる。内部空間は個々の曲面屋根と木造の柱で柔らかく分節されている。広がりのある大きな空間であっても、柱や筋交いが作り出す親しみやすいスケール感が子供の身体感覚に安心感を与え、居心地の良さを生み出すという。

またこの小学校では図書館などの一部施設を地域住民にも開放することになっている。小学校のエリアと地域開放のエリアは、セキュリティの範囲を時間によって変えることでゆるやかに繋がる。子供たちと地域の住民が同じ施設に共存し、それが街からも見えることが重要だと御手洗は考えている。

「建築は単体ですが、建築だけで捉えるべきではないと思います、震災以降は特にそう考えるようになりました。どんな小さい建築でも、街とともに動いていくというか、街を変えていく。そうしたことが建築でできればいいと考えています」

 

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