カルチャー

プレミアムジャパン・アートプロジェクト<建築家シリーズ> Vol.20

利用者の自主性を引き出す空間を目指す建築家、中川エリカ(後編)

2017.03.05

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「プレミアムジャパン・アートプロジェクト」の若手建築家の連載インタビュー。中川エリカの2回目では、彼女のこれまでの歩みとこれから目指す建築について話して貰った。

ここで何ができたら楽しいだろうかと考えることからスタート

中川がオンデザインでの所員時代に担当した「ヨコハマアパートメント」は彼女のキャリアの原点となった作品だ。

「当初のオンデザインは西田司さんの考えた案をスタッフと一緒に実現するというトップダウン型のやり方だったのですが、私が入社した後で、スタッフの提案を西田さんと一緒に検討しながら設計を進めるというボトムアップ型の設計手法を実験的に試みるようになりました。その第1号が『ヨコハマアパートメント』で、入社1年目の私が担当することになりました」

中川はプロジェクトの出発点をこのように語った。「ヨコハマアパートメント」は若いアーティストに展示・製作・住居を提供する目的でつくられた集合住宅だ。最大の特徴は、4戸の住戸に加えて、さまざまな用途に利用できる広い共用部があることだ。2階建の建物で、4つの壁柱で高く持ち上げられたスラブのうえに4つの住戸がのっている。

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写真(上)/ 「ヨコハマアパートメント」Yokohama Apartment
(上)建物の外観。1階部分は二層分の高さの壁柱に囲まれた半屋外的な共用スペース。その上の2階部分に4つの住戸が配置されている。(中)竣工当時の共用スペースの様子。4つの階段は2階の各住戸に繋がってる。(下)竣工から7年を経た共用スペースの様子。家具などが置かれ、入居者によって積極的に活用されていることがわかる。

各住戸は浴室やミニキッチン、収納を備えている。小さな空間だが生活の場としては完結していて、そのうえでのプラスアルファとして1階に広い共有部がある。「広場」と呼ばれる1階のピロティ状の半屋外空間は天井高が5メートルもあり、入居者は作品の展示や製作を行うことができる。また時には、近隣の住民やインターネットで建物を知った人による持ち込み企画で、コンサートや公演、ワークショップなどのイベントも行われる。

「作る側の都合よりも、『使う側の実感として、ここで何ができたら楽しいだろうか?』と考えるところから設計をスタートしました。立地は谷地で暗いところなので、それを凌駕するような開放感のある空間を作ろうと決めました。それから専有と共有のバランスをもう一度考えなおしてみたいという思いもありました。

共有部であっても誰もいない時には一人で使ってもいい。ルールで縛るよりは、入居者に使い方を考えてもらう。『他人と何かを共有しなくても暮らせるけれど、自分が得をするから、ある部分を共有する』という考え方はとても大事です。逆にシェアハウスのように、生活に必要なものを共有しないと暮らせない仕様はどうしても窮屈になります。そのため『ヨコハマアパートメント』では、共有するかしないかを、使う人が自分の判断で選べる状態を作りたいと思いました」

所有者や設計者の都合で使い方を細かく規定するのではなく、利用者の自主性を引き出すような空間を目指す。中川が「適当な放任」と呼ぶ設計の姿勢は竣工後も維持されている。「ヨコハマアパートメント」では月1回の入居者会議が開かれ、「広場」の使い方などを話し合う。その席には設計者も必ず参加するという。

「建物を維持するための仕組みを設計段階から考えることが大事です。つまり将来の持続性をあらかじめ設計のプロセスのなかに組み込んでおくわけです。普通の住宅の設計でも、施主との長い対話を、完成後の建物が維持されていくうえでの準備期間と考える。『ヨコハマアパートメント』ではそうした考え方を学ぶことができました」

 

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