プレミアムジャパン・アートプロジェクト<建築家シリーズ> Vol.20

利用者の自主性を引き出す空間を目指す建築家、中川エリカ(後編)

2017.03.05

_MG_0974 copy建築がモノとしてフィジカルに建ち現れるときの感動を

2015年に完成した「コーポラティブガーデン」もオンデザイン時代に設計を担当した作品。この集合住宅(コーポラティブハウス)は「庭のある家」を積層させるというコンセプトで成り立っている。ここで試みられた外部(庭)と内部(室内)の結びつきは『桃山ハウス』での庭の活用へと繋がる。

また独立後に手がけた『ライゾマティクス 新オフィス移転計画』は広いワンルームの倉庫をクリティティヴチームのオフィスに改装するプロジェクトだが、ここではいろいろな働き方を受け止めるインフラ兼プラットフォームとして「ビックテーブル」と呼ばれる木造の什器が提案されている。

rd1700_(1)rd1700_(2)写真(上)/ 「ライゾマティクス 新オフィス移転計画」
(上)アイレベルで見た模型。天井高の高いワンルームの空間内に複数の「ビックテーブル」を設置。ロフトのようなワークスペースを増設している。(下)模型を上から見たオフィスの全景。「ビックテーブル」は全部で8個あり、多様に変化するワークスタイルに対応している。

「ビックテーブル」は巨大なテーブル状の構造物で、ロフトの床のように機能する。その上に人が集まって打ち合わせなどの作業が行えるほか、ワークスペースを立体的に配置することで新しいコミュニケーションを誘発する効果も期待できる。空間の中でいかにして多様なアクティヴィティを発生させるかという探求は、明らかに『ヨコハマアパートメント』での「広場」の実践の延長線上にある。

「私たちの世代は新築の仕事も少なく、実際に建物を建てる機会に恵まれていません。しかし、建物を作るだけが建築ではないという話では、建築家の職能を拡張すると言っても、実際には中身が薄まっているだけのような気もします。私としては建築をもう一度、モノとしてフィジカルに建ち現れるときの感動に引き戻したい。そのための経験を社会に出てから積んできたという自負もあります。私の世代のなかでは、それを意識的かつ積極的にやっていきたいと思っています」

困難な時代にあっても、フィジカルに建ち上がる建築の姿に賭けるという姿勢からは、潔い覚悟すら感じる。彼女が思い浮かべる建築には、常に人間の豊かな活動や生活が伴っている。過去の経験に裏打ちされた人間の可能性への信頼こそが、彼女の建築を支えていると言えるだろう。
 
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【プロフィール】
中川エリカ(なかがわ・えりか)
1983年東京都生まれ。2005年横浜国立大学工学部建築学科卒。2007年東京藝術大学大学院美術研究科修了。2007〜2014年オンデザイン勤務。2014年中川エリカ建築設計事務所設立。2016年より東京藝術大学、法政大学非常勤講師。
http://erikanakagawa.com/

取材・文/鈴木布美子、撮影/岸本咲子、コーディネート/柴田直美

 

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