「アトリエ・ブランマント」総合ディレクター齋藤峰明さん連載 vol.6

黒川光博さん(虎屋十七代当主)×齋藤峰明さん(アトリエ・ブランマント総合ディレクター)

2017.03.30

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世界で認められる“老舗の流儀”とは

エルメス本国で副社長を務め、現在はパリのマレ地区で日本の伝統工芸品を扱う「アトリエ・ブランマント」をオープンしている齋藤峰明さんの連載。第6回目は、虎屋十七代目の黒川光博さんとの対談です。一見、かけ離れているように見える虎屋とエルメスですが、実は同じく老舗としての企業精神で深くリンクする部分があり、共通点も多いとか。

おふたりはこれまで何度も対談を重ね、その内容は昨秋発売された書籍「老舗の流儀 虎屋とエルメス」(新潮社)にもまとまっています。今回は、改めてものづくりへの考え方や、海外へ日本の文化を広めていくために必要なことなどについてお話を伺いました。

売り上げ第一ではなく、いいものをどうやってつくるか

齋藤「黒川さんとの出会いは、私がエルメスジャポンの副社長を務めていた2000年頃。ある雑誌で、エルメスのライバルはどこか?と聞かれて『強いて挙げれば虎屋です』と言ったことがきっかけでした」

黒川「その記事を拝見した私が齋藤さんにお会いしたいと思い、ご連絡したんですね。いざお話してみると、個人としても、ブランドとしても、思っていることがとても似通っていて。それ以来15年以上いろいろな場所でご一緒する機会に恵まれ、この本も誕生しました」

rd1700_MG_1972-2齋藤「今日は、本の中でもお話した老舗やブランドというものの本質に触れながら、日本を世界にどう伝えていくかについてもお話できればと思います」

黒川「よろしくお願いします」

齋藤「さっそくですが、昨今、日本の経済もグローバリゼーションが進み、企業の価値をアメリカ式に上場や株価ではかることが多くなりました。そんななか、虎屋さんのように何百年も続いてきた老舗企業の精神は日本が世界へ誇るべきものだと思います。いま改めて、企業のあり方が問われているのではないでしょうか」

黒川「そうですね。以前、老舗の精神を大切にする日本企業が集まった『Spirit of SHINISE協会』のメンバーでフランスへ行った時、フランスの方々に老舗の精神についての考えをお話したことがありました。オンワード・廣内会長や竹中工務店・竹中会長、良品計画・松井会長など異口同音に話したのは “人”が大切だということでした」

齋藤「ヨーロッパの老舗を中心とした経済団体『エノキアン協会』の理念も、利益主義や株主優先主義などではなく、人や社会への貢献が大切であるとしています。フランスも日本と同じく、老舗精神を持つ企業がたくさんあります。180年続いてきたエルメスでも、お客様だけでなく取引先や従業員、関わる人すべてを大切にするという考えがあります」

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黒川「齋藤さんとお話していて、虎屋とエルメスに共通するところは、売り上げ第一主義ではなく、常にいいものをどうやって作るかが一番にあるなと。そして、結果として、ものづくりが売り上げにつながるという考えや、人やものに対する考え方にも共鳴するところが多いのです」

齋藤「確かに似ているところは多いと私も感じます。それにしても、創業500年の虎屋さんをはじめ、日本の長く続いてきた企業は本当にすごいなと思います」

黒川「老舗の多くは、長く続かせようと思ってやっているわけではなく、一生懸命やってきた結果、長くなったということだと思います」

齋藤「日々、いいものづくりをして、お客様の期待を裏切らないようにやっているから、結果として長くなるのですね。のれんを汚さないようにという言葉のように、使命感があるから続くという」

黒川「あるお客様の奥様がご病気になられて、ほとんど食べ物を受けつけなくなってしまったなか、虎屋の水ようかんだけは毎日食べてくださるという話を伺いました。お客様は医師だったのですが、本当に不思議だとおっしゃっていて。人生最後になるかもしれない方たちが召し上がるものを我々が作らせていただいているのだという責任を感じましたね」

齋藤「虎屋さんはいま、多くの人に必要とされていて、社会的な役割をも担うようになったのだと思います。虎屋さんがもし廃業になったら困る人が大勢います。長い間、季節ごとにきちんとものづくりをして、包装紙に包んで売り続けてきたことが物事の道理を示すようになって、日本人の価値観の基準にもなっているのです」

黒川「確かにそういう責任があるのかもしれません」

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齋藤「以前、お客様から、エルメスの価値観は家族の価値観と重なる、と伺ったことがありました。長く大切に使えるいいものづくりをするというエルメスの精神は、子供に対して、たくさん買うのではなくいいものを大事に使うべきであることや、壊れたら捨てずに修理して長く使うもの、と教える基準になっているというのです」

黒川「虎屋でも、そうした“我々の仕事は社会とつながっている”という話を社員と共有するようにしています。もし、仕事に意味を見出せなくなっている従業員がいたとしたら、我々の仕事は価値のあるものだと言ってくださる方がいる尊い仕事なんだと気づいてほしいです」

 

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