当代樂吉左衞門×坂東玉三郎対談 日本の風土とものづくりの心について

2017.04.14

rd1700_(5)Tamasaburo_Raku_0188-pいろいろな経験が無意識のうちに表出して、オリジナルになる

吉左衞門「こういう話をしていると、お茶碗をつくるときに何か特別な物や体験からヒントを得ているのかと聞かれたりします。例えばこの茶碗の色はイタリアの絵画の影響ですか、というような。でもそれは具体的なものは一切ありません。あえて言うなら土や空気、風、水蒸気といった形になっていないものに触れて、そこから伝わる何かを感じ取っています」

玉三郎「わかります。それって、いろんなものを見て感じた魂が一度無になって、土を触った時に自然に出てくるということではないでしょうか。何か特定なものに影響を受けて、考えて作ったりすると、ひとつのジャンルに入っていってしまうと思うのです」

吉左衞門「作る時は頭の中はいつも空っぽで真新しい。土に触れていくと少しづつわき出してくる。ただ、いつも浮かぶとも限らなくてそれが恐ろしいのです(笑)。だからこそ常に「気」が集まってくる感覚を掴んでいかなくてはなりません。1年、2年、3年とだんだん気を寄せていって充実していく。ついに最大限になってもういいとなったら展覧会をして人にお見せする。その後はまた頭が空っぽになって何も出てこなくなります。それで田舎に行ってぼーっとしていると、なんとなくまた気が寄ってきて、それをモソモソと引きずり出していくんです」

玉三郎「すごくよくわかります。自分もいま歌舞伎役者として、絶対に何をやりたい、というような特定の思いは無いような気分です(笑)」

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吉左衞門「僕は玉三郎さんのその気持ちとてもよくわかる。展覧会場の終わりにある三碗の作品は、3、4年前から作っていましたが、展示している茶碗はようやくできたもので、そのためにたくさん潰してきました。それまでの茶碗にあった色や、激しい削りも減らして。かといって長次郎の黒茶碗に戻るということではありません。もういいよね、充分よね、っていう気分。自分としては、少し黙りたいな、もう黙ってもいいかなと思っているのです。こうやって気持ちが生まれてきて、ものが生まれるんだと思います」

玉三郎「自然と出てくるものなのでしょうね。そうやって無意識の中で出てくるからこそ、良い雰囲気になるんだと思います。意識してできるものではないですからね」

吉左衞門「そう思います。聞いた話ですが、今回の展覧会に来ていた若いカップルの男の子が大黒(茶碗)の前で、“僕はこの茶碗を何時間も見ていることができる”と言ってたそうなんです。男の子の中に染み込むように大黒が見えたんでしょうね。すごいことだなと思いました」

玉三郎「それは素敵ですね」

吉左衞門「今回の展覧会は、大きく分けて、長次郎という始まりがあり、そこから私も含めた歴代が時代の中で苦労しながら生きてきた様を茶碗が語っています。時代は違っても、ひとつの世の中、ひとつの人生を受けて生きてきた歴代の葛藤や悩みや挑戦が、現代を生きる人にも共通する思いとなって見出せると思います。お勉強で見るのではなく“感じて”欲しい。だから会場には能書きや説明もわざと書いていないのですが、その中で自ら感じてもらえたらと思っています」

玉三郎「ぜひ皆さんに見て感じて頂きたいですね」

rd1700_(7)Tamasaburo_Raku_0312-p【プロフィール】
樂家十五代当主・樂吉左衞門氏
1949年京都生まれ。
1973年東京芸術大学彫刻科を卒業し、イタリア留学を経て、1981年十五代吉左衞門襲名。佐川美術館「樂吉左衞門館」の建築設計創案・監修を自ら行うなど、陶芸以外にも幅広く活動する。

歌舞伎俳優(女方)・坂東玉三郎氏
1950年生まれ。
7歳で坂東喜の字(きのじ)の芸名で初舞台を踏み、64年14代目守田勘弥の養子に入る。歌舞伎座「心中刃は氷の朔日」で5代目坂東玉三郎を襲名。2012年7月に重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定。

 

撮影/岡本隆史 取材・文/井上真規子

 

■開催概要
「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」 
東京展
会期:2017年3月14日(火)~5月21日(日)
会場:東京国立近代美術館
住所:東京都千代田区北の丸公園3-1
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル 8:00〜22:00)
休館日:月曜日 ※ただし、5月1日(月)は開館
開館時間:10:00~17:00(金曜〜20:00)※入館は閉館の30分前まで
入館料:一般1,400(1,200)円、大学生1,000(800)円、高校生500(300)円、中学生以下無料
※( )内は、20人以上の団体料金。
公式HP:http://raku2016-17.jp/

 

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