ホテルオークラ 至福のおもてなし《第3話》

2017.12.20

ホテルオークラ 至福のおもてなし

《第3話》

世界でも珍しい、ホテルが運営する「囲碁サロン」

__A_1190.jpgオークラ囲碁サロン 俯瞰

囲碁は「人生の縮図」と言われる知的なゲーム。落ち着いた雰囲気のサロンでバーやカフェから好きな飲み物や軽食を取って対局できるのは、ホテルのサロンならではの優雅な楽しみだ。ホテルオークラ東京囲碁サロンで使用される碁盤はすべてかやの木。碁石は白は蛤、黒は那智黒。日々手ぬぐいでひとつひとつ磨かれている。

テルオークラ東京の「囲碁サロン」は、ホテルが直接運営する倶楽部としては、かなり稀有でユニークな存在であろう。今年で35年を迎える「囲碁サロン」がホテルオークラ東京に設立されたのは、1982年の12月1日だった。この年、ホテルオークラ東京は開業20周年を迎え、その華やかしい流れの中で、文化事業の一部として別館に開設された。その陰には、当時の野田岩次郎名誉会長の尽力があった。野田は、囲碁の愛好者の一人であったから、文化としての囲碁を支援する意味もあったのだろう。

 現在、井山裕太七冠の国民栄誉賞で、囲碁に再び熱い視線が注がれているが、1980年代の日本において、囲碁は財界や文化人の嗜みとして活気を帯びていた。野田は、有段者やプロアマ問わず、ホテル内に囲碁を楽しめる社交場を提供しようと考えたに違いない。その「囲碁サロン」は、1996年に本館に移設され、その本館リニューアルのため2015年に再び別館に移設されている。

 在でもホテルオークラ東京は会員制サロンとしてこの「囲碁サロン」を運営していて、規定の入会手続きに則れば、その力量に問わず誰でも入会が可能である。現在の会員数は100名ほど。下は30代から上は90代までと年齢の幅も広い。うち三分の一は女性だと、マネージャーの沼田聡子はいう。この「囲碁サロン」を担当して13年になるという沼田は、自身もアマ初段の腕前である。彼女は、社員としてメンバーのお世話や心配りをしながら、時に対局のお相手もすることがあるという。そのようなホテルスタッフは、世界的にも稀有な存在といえるだろう。

 メンバーは営業時間内であれば、自由に楽しむことができるが、そのほかにクラス別に分かれて開催されるトーナメント戦の月例大会に出場することも可能だ。また、曜日別に女流棋士の先生が在室しているので、直接ご指導も受けることができるのも大きな魅力。中でも月曜日ご担当の小川誠子六段は、その象徴といえるだろう。

__A_1108.jpgオークラ囲碁サロン小川先生

17歳での野田岩次郎名誉会長との出会いからホテルオークラ東京と深いゆかりを持つ小川誠子六段。ご自身の結婚式もオークラの平安の間だったという。現在は毎週月曜日に対局指導を行っている。

 川六段は、NHK囲碁トーナメントの司会、あるいは週刊新潮の連載でもご存知の方も多いと思うが、ホテルオークラ東京とは、以前よりゆかりが深い。小川六段は14歳で全日本女流アマチュア囲碁選手権大会に優勝し、18歳でプロデビューを果たすが、その時に講師として声をかけてくれたのが、野田岩次郎名誉会長だったという。それは、この「囲碁サロン」で女流囲碁会やレディーススクールができるきっかけにもなった。現在、小川六段ほか、指導碁の講師には女性棋士たちが担当しているが、それもこの「囲碁サロン」の伝統である。  

 ホテルオークラ東京の「囲碁サロン」の魅力は、メンバーシップ制の安心感以外にも、気軽に軽食や飲み物などをサロン内で楽しめることである。もちろん、好みのカクテルやワインのリクエストにも応えてくれる。メンバーは駐車場も無料なので、クルマで通う常連も多いのだとか。碁石は日々磨かれ、週一回は洗浄のメンテナンスがされるという。碁盤も定期的なメンテナンスをしているそうだ。

__A_1075_02.jpgオークラ囲碁サロン

ホテルオークラ東京の囲碁サロンはメンバーシップ制だが、宿泊者も利用可能。平日は13時~21時(最終受付20時)、土・日・祝日は13時~19時(最終受付18時) 定休日は12月31日、8月13日~15日 入門教室やレディーススクール囲碁教室も開催されている他、女流棋士による対局指導も受けられる。03-3224-6640(ホテルオークラ東京囲碁サロン)

 後に、囲碁とホテルオークラ東京とを繋ぐエピソードを添えて締めくくろうと思う。囲碁ファンならご存知かもしれないが、公益財団法人日本棋院では、囲碁の顕彰制度として、大倉喜七郎賞を設けている。ホテルオークラ東京の創業者であり、「バロン オークラ」こと喜七郎は、囲碁の庇護者として1924年の日本棋院設立に資金面でも援助をした。のちに日本棋院の名誉総裁にも就任したが、その彼の功績を讃えて設立されたのが大倉喜七郎賞である。「オークラで囲碁を打つ」ということには、特別な意味と価値が含まれているのである。

 

 

 

文・中村孝則

写真・青木倫典

構成・藤野淑恵