ニッポンのいいね!を世界に発信するクリエイター 河原シンスケ

2015.09.28

これまで数々の国際的な企業やメゾンとコラボレーションを行ってきたアーティストの河原シンスケ氏。そうそうたるブランドから絶大な信頼を受ける“SHINSUKE KAWAHARA”は、海外でもっとも知名度の高い日本人アーティストのひとりです。

そんな河原氏が、いま30年ごしに日本での仕事を本格始動。当サイト『プレミアム ジャパン』のクリエイティブ ディレクター兼エグゼクティブ キュレーターも務めます。その河原氏に、いまなぜ日本なのか? そしてこれからの新たな活動について伺いました。

rd500_mine1

 いま、ここで長く時間を過ごしたいと思う理由

 現在はパリと東京を行ったり来たりする生活で、それでも以前と比べ、日本に滞在している時間は格段に増えたと話します。

「僕は30年以上ずっと外国で暮らしていて、大人になってからの日本での暮らしはほとんどありません。日本はすごくいい国で、自分は日本人なのに、どれほど日本のことを知っているかと改めて考えてみるとそんなに知らない。幼少期と学生時代しかいませんでしたからね。ここ数年でそのことをとてももったいないと感じていて、来る機会を増やしています」

 それは、いまだからこそ実現しやすいことでもありました。

「世界はすごく小さくなっています。明日パリに行こうと思ってもすぐに行けるし、インターネットがあればどこでも仕事もできる。僕が学生のころは携帯もネットもなかったから友達と手紙で近況報告をして、それでも相手にメッセージが届くのが10日後になるほど海外は遠かった。みんな美大生だったから、封筒をつくったり絵を描いたり、こった手紙を送り合っていましたね。いまは誰とでも瞬時に通信できるし、すべてのスピードが上がっているので場所に縛られなくなっています」

 

30年越しに感じる、ニッポンのプレミアム

 海外生活が長かった河原さんだからこそ再発見する、日本の魅力も多数あります。旅、食、アート、さまざまですが、何度来ても最も新鮮に映るのは日本のサービスの高さだとか。

「例えば飛行場に着くとみんなおじぎをしていますよね。キャビンクルーもタクシーもリムジンバスも、丁寧に“ありがとうございます”と言ってくれて、それは実は凄いことです。変な話、無料じゃないですか。ヨーロッパやアメリカでは必ずチップが発生しますから、日本のホテルなどに行ってサービスが優れているのにチップを払わないと申し訳なくなります(笑)。それは海外の友人たちも驚いていることで、日本の一番強いところはそこ。正直、居酒屋でも海外の5つ星ホテルくらいのホスピタリティがあったりもして、そんな国なかなかないです」

12

日々感じる、日本文化に対する世界のニーズ

 海外での生活が長いとはいえ、もとは毎日キモノを着て日本文学や伝統工芸に造形の深い母親に育てられたという河原氏。母親の影響で小学生のころから万葉集を読み、大人たちに混じりその舞台へ足を運ぶ旅を経験していたというエピソードも。日本人としてのアイデンティティは自覚しており、その感性とヨーロッパで養った感性のミックスが、大手メゾンから高い評価を受けている理由でもあります。

 長い時間を経て、いま河原氏は再度日本文化に触れる経験を積極的に増やしているところ。日本全国を旅し、伝統工芸にふれ、職人たちとの対話を続けています。そういった旅をブログやSNSにアップすると海外の友人からの反響が非常に高く、そこが外国人たちの日本に対するニーズだとも感じているそう。

「昔のニッポン観光は東京と京都だけというパターンが多かったけれど、いまはそうじゃなくなってきています。先日もアメリカ人の友人が、長野県を中心に工芸品を周る旅をしてきたばかり。陶芸の先生の工房や美術館、宿まですべてオーガナイズされたドライバーつきのプライベートツアーでした。リーフレットまで準備されていて、でもそれはアメリカの会社によるものだった。日本人が組む、そういう上質なツアーがもっとあったらいいと思います。僕もそうですが、彼らの“造り手の現場に行きたい”という気持ちは強くて、そういう情報が求められているんです」

 

 

海外からの期待も大きい、伝統工芸とのコラボレーション

 また河原氏の海外の友人の話で興味深いのが、いまヨーロッパで“こけし”が流行っているということ。

「現代こけしというか、オブジェとしてこけしが売れているんですよ。プラスチックもあれば木製もあって、どうやらキャッチーなようです。僕もこけしマニアの友人に実家にあったものを送ったらとても喜ばれました。それはなかに手紙を入れられる仕組みになっているこけしで、昔からよく工夫されているなと驚かされます」

IMG_2351

 今後、『プレミアム ジャパン』では、そんな海外目線でみたニッポンブームや河原氏の国内の旅の様子、工房を訪れたときのエピソードを常時発信していく予定。そして河原氏は、伝統工芸の工房とのコラボ作品を創作していく意向もあります。

「いまインスピレーションを受けている日本の伝統工芸に関わる作品もつくりたいですね。例えば最近行った秋田県大館市の“曲げわっぱ”の工房とも、一緒になにかつくりたいと考えているところです。木の合わせ方など、クオリティの高さに感心しました。彼らの凄いのが、“こういう風にはくっつかないんですか?”というこちらからの難しい提案に対しても、すぐに無理とは言わないこと。そして結果的に完璧なものをあげてくれたりする。それってフランスの一流の職人、例えばエルメスの工房などと似ていて、そういう伝統的なテクニックをきちんと持っているところは、一番アバンギャルドなことに挑戦できる場所でもあるんですよ」

 

目指すは、隣において人をハッピーにさせるアート

 河原氏にとっての“クールジャパン”を聞くと、やはり彼ら伝統工芸の職人たちの話があがりました。

「すごく真面目な国民性が仕事の仕上がりに表れています。ひとつモノを作るにしても、本当にきちっとしていて、繊細に美しく完成させる技術は尊敬するほど。プロダクトにしても日本食にしても、なぜ世界のみんなが驚くかと言うと、できそうでできないからです。日本人の、見えない準備に時間を費やす姿勢は素晴らしいし、結果、完成度がとても高いですね」

 

 工房に行き、刺激を受け、それが自らのクリエイティブに繋がる。最後に、いま河原氏がこれからつくりたい作品について教えてくれました。

「自己満足ではなく、接した人が楽しい気持ちになってくれたらいいなと思っています。コンサートに行ってミュージシャンが出てくると、そのとたんにアドレナリンが上がりますよね。そういう喜びもあるけれど、一枚の絵、一枚の写真、作品をみて、じわじわくる良さや幸せもあるはず。僕はそういうものをつくっていきたいし、いま日本のカルチャーから受けている刺激は少なからずいいカタチに表れそう。そしてその作品に接した人が、最終的にハッピーになったり、居心地がよかったり、そういう風なところを目指せたらいいなと。それがいま思う僕のアートの理想であって、新しいメイドインジャパンが目指す方向性なんじゃないでしょうか」

10

 

河原シンスケ

80年代よりパリを拠点に活動を開始。フィガロ、エル、マリクレール、ヴォーグ等のイラストやエルメス、バカラ等の広告を手掛けるほか、ルイ・ヴィトン『LE MAGAZINE』のクリエイティブ・ディレクションを担当。2014年7月の札幌芸術祭ではルイ・ヴィトンのサポートによるインスタレーションとオフィシャル・ディナーをプロデュース。2015年3月には銀座三越のメインビジュアルを担当。4月はエルメス本店petit h(プティ アッシュ)に作品を発表するなど日本と世界を舞台に活躍。キモノや陶磁器、茶道、華道など日本の伝統文化をこよなく愛する風流人でもある。

 Text/Tomoko Oishi