生駒芳子コラム第2回:日本人の美意識のDNAを未来に繋げるために

2017.10.29
クール・ジャパン事業でパリ装飾美術館で開催した「WAO」展2012年)

クール・ジャパン事業でパリ装飾美術館で開催した「WAO」展(2012年)

伝統工芸と出会った2011年当時、私は、クール・ジャパン官民有識者会議の委員として会議に出席していました。2010年に政府が発表した新産業構造ヴィジョンの中に描かれた柱の一つが、「文化」であるーーつまり、これからの日本は「文化」で食べていく国になる、という宣言を知り、正直なところ、「今頃になって支援とは、遅いくらい」と思いつつも、文化が政府のバックアップを得ることに高揚する気持ちに包まれたことを覚えています。アニメーションや漫画などポップカルチャーから伝統世界まで、日本の文化を世界に発信するウエーブを起こすという政府の視線には、期待する気持ちでいました。

 そんな背景もあり、2011年夏、猛烈な勢いで伝統工芸の世界の匠たちに出会い初めていた私は、展覧会を企画しました。タイトルは「FUTURE TRADITION WAO」。未来の伝統、そしてWAOとは、和(WA )+生(O)、和の世界が再生する願いを込めたタイトルです。私の目にとまったのは、ピンクの南部鉄器、真っ赤な漆のバングル、おしゃれな藍染のストールなどーーつまり、イノベーティブな伝統工芸のアイテムたち、言い換えれば、未来に伝統となるような革新的なアイテムたち。どちらかと言えば、伝統工芸世界ではアウトサイダー的なものたちでしたが、それこそが革新につながると思ったのです。

 伝統工芸の世界を覗いてみた私の印象は、技術の素晴らしさはともかく、デザインや柄の古さに限界を感じていました。第二次世界大戦後、日本の社会が急速に欧米化したことに比例して、人々の生活からは、着物も日本家屋も消えてしまったのですが、日本の伝統工芸は、着物と日本家屋が機能していた時代に成立したデザインや柄であり、それらがそのまま隔離されて残っていたからです。

 伝統工芸を進化させるには、「革新的な発想」が必要である。その頃に出会った、和紙作家の堀木エリ子さんが「いま起こす革新が、未来の伝統になるのです」という一言を発していらしたことが強烈な印象に残りました。

 2011年夏、表参道のアートスペースにて、「FUTURE TRADITION WAO」の展覧会を開催、日本の伝統工芸世界から進化系の作品を集め、また、ラグジュアリーブランドと日本の伝統工芸によるコラボレーション作品も展示。

 その後も、クールジャパン事業として、パリ・ニューヨークで展示したり、工芸×アートのテーマで「CERAMIC BEAUTY」展、工芸×ファッションで「GOTHICOUTURE」展など、数々展示を重ねると同時に、「WAO」でシーズンごとにポップアップショップ、オンラインショップも展開。

 そしてこの2年間は、伝統工芸×ファッションのテーマのもとに全てをオリジナル開発するブランド「HIRUME 」を開発してきました。日本の美しい素材をベースにおいて、モダンに、時にエッジィにプロデュースする。伝統工芸とファッション、デザイン、アートを掛け合わせて、世界で活躍する女性たちのためのスペシャルなアイテムを誕生させてきました。


MIHARAYASUHIROの西陣織ドレス「〜ファッションと伝統工芸が出会う〜GOTHICOUTURE展」@EYE-OF-GYRE-表参道(2012年)

 このブランドの事業化こそが、今の私の最大の命題です。日本全国の数多くの職人さん、工場と繋がって、開発を進めているこのブランドは、7年前の金沢で雷に打たれた瞬間からのことを考えると、まさに辿り着くべき道筋だったのではないかと考えています。ミッションというべきか、ライフワークというべきかーー人の人生には、幾度か、運命的な出会いがあると聞きますが、私にとって、伝統工芸世界との出会いは、まさにそうした強い引力のような出会いのエネルギーを感じます。やりたいこと、という以上に、どうしてもやらねばならないこと、という背中を押される感覚を強く感じるのです。


伝統工芸ベースのラグジュアリー・クリエイティブブランド「HIRUME」(2017年)

 日本人の美意識のDNAを未来に繋ぐーーという、自分が人生をかけて取り組むテーマに出会えるというのは、本当に幸せなことでもあります。いま同時に、文化庁日本遺産のプロデューサー、レクサス匠プロジェクトのアドバイザーも務めており、全国を旅する旅ガラスになっていますが、これらの仕事は全て私の中で繋がっています。

 地方創生、地域活性化、伝統産業・地場産業の活性化は、いまや時代の最大命題ですが、そのことに深く関わる責任とよろこびとを感じながら、日本各地へ旅を続けています。そして、旅先で出会う、素晴らしい自然、人、文化についてーー感動するばかりの日々で、独り占めするのがもったいない!と感じる日々ですが、そのことについて、これからこのプレミアム・ジャパンで随時お伝えしていければと楽しみにしております。

 

<プロフィール>

生駒芳子(いこま よしこ) 

VOGUE、ELLEを経て、マリ・クレール日本版の編集長を務める。2008年に独立し、ファッションからアート、デザイン、伝統工芸、エシカル、クール・ジャパン、社会貢献、女性のエンパワメントまで、幅広く執筆・編集・企画・プロデュースを手がける。2010年より、日本の伝統工芸を世界発進するプロジェクト「工芸ルネッサンスWAO」の総合プロデュー サーを務め、パリ、ニューヨーク、東京で、ファッションやデザイン、アートを切り口としたキュレーションで伝統工芸世界を紹介。2017年、伝統工芸をベースに置いたラグジュアリーでクリエイティブなオリジナルブランドを立ち上げる。