中村孝則コラム第1回:「日本に眠る魅力」を呼び覚ます

2017.10.12
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おそらく。このメディアに求められいる要素の一つは、「日本に眠る魅力」を呼び覚ますこと、なのだろうと思います。その場合の、覚める主体は何かと言えば、とりもなおさず私たち日本に住む人なのではないでしょうか。「日本の人こそが、日本の魅力に気がついていない」という目覚めは、海外経験のある方なら、どなたも思い当たるフシがあると思います。何も、ここでグローバリゼーションの賛否を問いたいのではありません。せっかく、この豊かな国にいながら、感性を眠らせたまま、その魅力のすべてを味わい尽くさないのは、もったいと言いたいのです。

福岡・博多の西中洲にある、「ラ・メゾン・ドゥ・ラ・ナチュール・ゴウ」という、小さなフランス料理店をご存知でしょうか?この秋で15周年を迎える30数席のこの店は、オープン以来常に満席を誇る、知る人ぞ知る地元の名店です。近ごろは、海外の美食家たちやプロのシェフたちから人気で、予約困難店になりつつあります。彼の店の名が、世界の美食家や関係者に知られるきっかけは、私が日本評議員長を務める「アジアベストレストラン50」でした。昨年のアワードで初登場して、いきなり31位にランクインしたのです。

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このランキングは、アジアを代表する料理評論家やプロの料理人たち約350人の投票で毎年の順位が決められます。アジア全域の20以上の国や地域のすべてのレストランが対象になるため、50位に入るのは至難の技。東京・大阪・京都以外のエリアで初入賞というのも驚きでしたが、正直申し上げて、私もその会場で初めてオーナーシェフの福山剛さんとお会いしました。私だけでなく、ほとんどの日本のメディアも一流シェフたちも、彼も彼のレストランもノーマークでした。というか、そんな店が日本にあることすら知らなかった。ところが、彼を評価したのは、悔しいことに海外の美食家たちだったのです。なぜ、彼のレストランが海外から高く評価されるのか。博多がアジア各国から近いという地の利もあるでしょうが、そこでしか体験できない魅力があるからです。その理由は、日本人よりも海外の人の方が説得力ある説明をできてしまいそうだと思ってしまうのは、いささか残念な感じがします。

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「ローカル・ガストロノミー」とう言葉は、『自遊人』という雑誌の編集長、岩佐十良さんの造語です。スペインのサン・セバスチャンが“美食の街”として、世界中から観光客を呼び込んでいるように、日本でも地方をレストランで活性化しようという動きが、ようやく各方面で起こり始めています。「ローカル・ガストロノミー」とは、まさにガストロノミー、美食で地域を活性化するためのキーワードになりつつあります。その場合の美食とはレストランだけでなく、それを取り巻く環境——その背景にある食材であり食文化であり気候風土や人柄までも含まれると思います。そういう文脈において、今やレストランというのは、観光誘致を含めた地域活性のためのキーコンテンツになっているのです。だから世界各国では、国や自治体が積極的にレストランを後押しするのです。オーストラリアに至っては「レストラン・オーストラリア」という国家キャンペーンを海外に展開して、オーストラリアのレストランを支援しているほどです。その背景には、観光誘致だけなく同国の食のイメージを高め、穀物や肉類、あるいはワインの輸出を伸ばそうという、したたかな戦略も仕込まれていることも見逃してはなりません。

残念なことに、日本ではレストランというコンテンツを、世界に押し出すための公的な支援というは、ほとんどありません。むしろ、無自覚に近い。私の知る限り、個々のレストランが、ほぼ手弁当で活動しています。「世界ベストレストラン50」のようなアワード選ばれても、シェフが自身の店を閉めて、自腹で参加するのが現状です。ならば、少なくとも彼らのような世界と戦えるレストランを発掘しその魅力を伝え、さらに加えれば、日本のレストランそのものが海外に誇るべき文化的な遺産であり武器であることを、啓蒙するのもメディアの役割なのではないかと、思うのです。何も、レストランに限らず、日本にはそういった眠っている資産が、ふんだんに、見逃されているのだと思います。

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日本には、どんな目覚めが待っているのだろうか。考えるだけでワクワクしますが、皆様とともに私自身も、プレミアムジャパンを通じて体感できることを、楽しみにしています。

 

<プロフィール>

中村 孝則(なかむら たかのり)

コラムニスト。1964年神奈川県葉山町生まれ。ファッションからカルチャー、旅やホテル、ガストロノミーからワイン&シガーまで、ラグジュアリー・ライフをテーマに、執筆活動を行っている。また最近は、テレビ番組の企画や出演、トークイベントや講演活動も積極的に展開している。現在、「世界ベストレストラン50」日本評議委員長も務める。剣道教士7段。大日本茶道学会茶道教授。