中村孝則 コラム第3回「日本に眠る魅力」を呼び覚ます~生きる芸術-盆栽の魅力《後編》

2017.12.01
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盆栽の世話をする人のことを「盆栽師」といいます。盆栽師は、その盆栽の個性を見極めながら、芸術的な造形へと導くため、熟練の技術とセンス、知識を駆使します。日本の盆栽は平安時代に唐から伝わった「盆景」を起源にし、鎌倉時代には「盆栽」として確立。その後、武士の嗜みとして普及はスタートしていきます。盆栽師の技術は、その頃から伝承して今に繋がります。

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 私の友人の平尾成志さんも、その伝統を受け継ぐ気鋭の盆栽師の一人として、いま世界から注目さています。平尾さんは1981年生まれ。大学生時代にたまたま訪れた京都・東福寺の方丈庭園の造形美に感銘を受けて、盆栽に深い興味を持ったといいます。大学を卒業すると、大宮盆栽村の老舗盆栽園『加藤蔓青園』の門を叩きました。そこで、三代目の当主であり伝説の盆栽名人、故・加藤三郎さんに師事します。

 加藤さんは、その生涯をかけて、盆栽の魅力を世界に伝える活動をしたことでも知られます。平尾さんは、その加藤さんから盆栽の水やりから始まり、技術や知識や美意識だけでなく、それを世界に広める啓蒙精神までも学んだといいます。その後、平尾さんの転機は2013年の32歳の時に訪れました。文化庁から「文化交流使」に任命されたのです。「文化交流使」は、日本の文化を海外に普及するための特別なディプロマでもありますが、平尾さんは盆栽文化を海外に普及するために、4ヶ月で11カ国を巡ったといいます。「海外での盆栽人気に、自分自身も驚いた」という平尾さんは、盆栽のデモンストレーションやワークショップだけでなく、時にDJと組んで路上パフォーマンスなど、様々な活動を行なったといいます。時に、その活動の枝葉だけつまんで、事情を知らない同業者から揶揄されることもあったそうですが、「日本と海外では伝え方の作法が違うだけ。むしろ盆栽の本質や精神性を伝えるには、革新的な方法も必要なのでは」といいます。

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 最近は日本でも、新しい空間に適した盆栽の展示や、若い世代にその魅力を伝える講演や教育にも力を注いでいて、2016年の5月には、自らの盆栽園『成勝園』を立ち上げました。私も、そのオープニングに駆けつけましたが、川沿いの広い敷地では多くの盆栽が育てられ、販売や管理だけでなく様々なワークショップを行なっているので、興味ある方はぜひ一度訪れて欲しいと思います。

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 平尾さんは、今の世界的な盆栽ブームを追い風と感じつつも、同時に少なからず危機感を持っているといいます。一つは、盆栽文化を支える盆栽師の後継者不足です。盆栽そのものはもちろん、盆栽の伝統文化を後世に伝えるには、若手の育成が急務と訴えます。もう一つ危惧してることは「日本から盆栽がなくなってしまうのではないか」という不安。日本の盆栽の価格は、その全盛期から比べ物にならないくらい安いそうです。明治維新後の浮世絵のように、「向こう30年以内に名品の多くが海外に流出する恐れがある」というのです。「盆栽は、その中に自然を見出し慈しむ精神を育みます」。その魅力を日本の人にこそ知って欲しいし、一つでも多くの盆栽が日本で引き継いで欲しいと、平尾さんは願っています。

 

<プロフィール>

中村 孝則(なかむら たかのり)

コラムニスト。1964年神奈川県葉山町生まれ。ファッションからカルチャー、旅やホテル、ガストロノミーからワイン&シガーまで、ラグジュアリー・ライフをテーマに、執筆活動を行っている。また最近は、テレビ番組の企画や出演、トークイベントや講演活動も積極的に展開している。現在、「世界ベストレストラン50」日本評議委員長も務める。剣道教士7段。大日本茶道学会茶道教授。