近藤誠一さん(元文化庁長官、近藤文化・外交研究所代表×齋藤峰明(アトリエ・ブランマント総合ディレクター)

2017.10.12
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齋藤峰明がホストを務める対談連載の、記念すべきリニューアル後初のお相手は、元文化庁長官であり、外務省官僚としてOECD事務局事務次長やデンマーク大使などを務められてきた近藤誠一さんです。

官僚生活の約半分にあたる20年近くを、フランスやアメリカをはじめとした海外で活躍され、2010年に文化庁長官に就任されてからは、富士山の世界遺産登録の実現にも尽力されました。

長官退任後は、近藤文化・外交研究所代表として、日本文化をいかに海外に伝えていくか、さらには文化を軸とした地方再生を軸に精力的に活動を続けています。

世界を渡り歩いてきた近藤さんが、日本文化に対してどういう思いをお持ちなのか、そしてどういう形でその文化を伝えていくべきなのかをうかがいました。

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経済の中枢で気づいた日本文化の魅力

 齋藤「リニューアルの記念すべき第1回目。近藤大使とは今までゆっくりお話しする機会がなかったので、うれしく思っています。プロフィールを拝見して驚いたのですが、私が存じ上げている文化的側面だけではなく、外務省時代はOECDの事務局に、さらに現在は大学教授から地方自治体のアドバイザーまで本当に幅広くご活躍されていらっしゃいますね」

 近藤「世界中を見たいと外務省に入ったのが1972年。実は学生時代経済学が大嫌いで、省庁の中でもっとも経済から縁遠いと思ったのも志望理由のひとつだったんですが、結局パリのOECD(経済協力開発機構)本部など外務省時代の2/3は経済関係をやらされました(笑)」

 齋藤「文化的な側面のお仕事にはどんなところから関わられたのでしょうか?」

 近藤「OECDでは周りはバリバリのエコノミストばかり。苦手なマクロ近代経済学も猛勉強し直して、それはそれでおもしろかったんです。でもそもそも人間自体がそうであるように、世の中には経済の合理性で割り切れないものがたくさんあるんじゃないかということにも、逆に気づき始めたのですね。理性だけで判断できない部分も大事にしなくてはと、バランスをとる意味でも文化というものに関心を持つようになりました。その後東京の本省に戻ったのですが、ついたポストが文化交流部長。これは神様の思し召しかもしれないと思って、今度は文化の勉強を始めたんです」

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 齋藤「世界経済の中枢にいた時に、まったく正反対の文化に興味を持たれたんですね」

 近藤「当時の日本は、まだバブルがはじける前。でも好景気がいつまでも続くわけがないし、日本の本当の良いところは経済論理の中での成長というだけではなく、もっと他にあるのではないか? 欧米の文明に偏り過ぎて大事なものを見忘れているんじゃないか? という意識がなんとなくあったのです。そんな思いをOECD時代にエッセイという形で連載するようになりました。その後はUNESCO大使やデンマーク大使を経て文化庁長官になったので、結局すっかり文化の方になってしまいましたね」

 齋藤「文化庁長官としては、珍しいキャリアだったのでしょうか?」

 近藤「これまで三浦朱門さんや河合隼雄さんなどの文化人4人の他は、基本的に長官に就任するのは文部官僚です。外務省からというのは珍しいです」

齋藤「でも外交畑からその職に就いたのには、意味があるということでは?」

 近藤「例えば多国間のフォーラムでの根回しなどは、外務省では当たり前のことなのですね。だから特に世界遺産登録などに関しては、外交のバックグラウンドがあることでのコントリビューション(貢献)はできたのかなと思います」 

齋藤「文化庁長官を退官された現在は、どんな活動をされているのでしょうか?」

 近藤「退官して4年ですが、現在も文化・芸術分野での日本からの発信や、日本人をもっと精神的に豊かにし、日本の存在感を示せるような仕事にかかわっています。例えば官邸の日本の魅力発信プロジェクトのひとつ、日本の良書を英訳出版する『JAPAN LIBRARY』では、選定委員としてコマーシャルベースには乗らないけれども世界に伝えるべき本をピックアップしています。

 齋藤「それは日本の文化発信に影響力がありますね。私も最近森田真生(まさお)さんという若い数学者が気になっているんです。東大文学部から途中で転校して数学者になるのですが、彼の著書『数学する身体』では数学の話から最後は文化論や松尾芭蕉の話になるんです。情緒的な文化だけではなく、理論と交わる形でも日本というものを伝えるやり方もあると思います」

 近藤「そうですね。数学や自然科学は主観が入らない客観的な方法で真理を探求していく学問ですが、当然科学者個人が背負っている歴史的背景や文化、価値観がそのベースにあるわけです。だから数学や自然科学を極めていくうえでも、日本人には日本人的アプローチがあっていいと思います」

《第2話へ続く》

 

<プロフィール>

元文化庁長官、近藤文化・外交研究所代表
近藤誠一

 東京大学教養学部卒業後、1972年外務省に入省。1973年~75年英国オックスフォード大学留学。外務省では経済局、広報文化交流部などを担当する。在フィリピン大使館参事官、在米国大使館公使を務めた後、1999年OECD(経済協力開発機構)事務次長に。その後2006年にはユネスコ日本政府代表部特命全権大使、2008年駐デンマーク特命全権大使を歴任。2010年から13年まで文化庁長官。退官後は近藤文化・外交研究所代表を設立。外務省参与(国連安保理改革担当)を務める傍ら、東京大学大学院特任教授、長野県文化振興事業団理事長、京都市芸術文化協会理事長等を務める。「世界に伝える日本のこころ」(かまくら春秋社)、「FUJISAN 世界遺産登録への道」(毎日新聞社)など著書多数。