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篠峯 吟和 中取り純米大吟醸:「気になる日本酒」 vol.12 あおい有紀

2015.12.25

 

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米と真摯に向き合う日本酒造り

日本酒ファンの間で、いま静かに注目されている銘柄の一つ、「篠峯」。奈良県御所市大字櫛羅にある、創業明治6年の千代酒造が醸すお酒です。「千代」、「櫛羅(くじら)」、という銘柄もありますが、2000年より、地元奈良盆地にある葛城山の別名でもある「篠峯」を新たな銘柄として展開してきました。昔は、小字井戸、という地名がつくくらい地下水が豊富に湧き出ている地域で、その水はとても柔らかい軟水。日本酒の仕込みには、この葛城山の伏流水を使用しています。

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3代当主の堺哲也社長は、現在杜氏としても酒造りに関わっていますが、娘婿として20年前に蔵に入りました。北海道出身で帯広畜産大学を卒業後、山梨県勝沼のグレイスワイナリーで、ぶどうを育て、ワインを造ってきた堺社長。それが酒類の醸造技術を研究する国立研究機関、滝野川醸造試験所で今の奥様と出会い、結婚を機にワイン造りから日本酒造りへ。環境は大きく変わりましたが、特に抵抗はなかったといいます。当時蔵にいた但馬杜氏からいろいろ教わりながら、蔵に入ったその年から、酒蔵の目の前にある自社田で米作りも始めました。

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「山の麓にあり、田んぼ一枚も狭くてあまり多くの米は造れませんが、現在2.5ヘクタールでタンク5本分の米を造っています。この立地でもできることがあると思いますし、少しずつこれからも増やしていければ。米がどういうものか、私だけでなく蔵人も勉強になっています」

自社で栽培している米は、全て山田錦。他には、奈良県産の伊勢錦や、岡山産の雄町、兵庫産の愛山、北海道産の吟風、富山産の雄山錦、広島産の八反35号など、全国様々な地域の酒造好適米を使用しています。

最近のテーマは、“米と向き合う”。堺社長はその意味を以下のように語ります。

「酒造りは奥が深く、正解がありません。例えば、米を磨くにも精米歩合何%にするのが良いのか。日々試行錯誤ではありますが、目先の流行の味わいをただ追いかけるのではなく、篠峯のオリジナリティを追求していきたいと思っています。それぞれの米のニュアンスを酒の味わいに引き出し、酸を酒の骨格に取り込み、後味はクリアになるような造りを目指しています」

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特別な日に頂きたい、篠峯の最高峰

「篠峯」のなかでも最高峰の銘柄が、今回ご紹介する「篠峯 吟和 中取り純米大吟醸」。兵庫県の特A地区で作られた特等米の山田錦を、自社で40%まで丁寧に精米しています。中取り、と言われる3段階ある搾りのうちの2段階目(荒ばしり、中取り、責め)で、圧力をかけずに搾る、一番ピュアで雑味のないバランスのとれた部分のみを瓶詰めし、一度火入れ。みずみずしいりんごのようなフルーティーな香り、なんとも上品で芳醇な米の旨味、コクも感じられ、さらりとキレていく余韻が美しく、感動の一杯です。

吟醸造りというジャンルのなかでの「篠峯」の答えが、この「吟和」だと堺社長がおっしゃるように、誰が飲んでも分かりやすく美味しい吟醸酒を見事に表現しています。綺麗な化粧箱入りですし、贈答用や新年を迎えるにあたり、おすすめのお酒です。

ワインと日本酒、両方の世界を知っている堺社長こそ感じることもあります。

「飲み物それぞれを単独で比較すればワインの方がバラエティも奥深さも勝っていると思いますが、料理や器、燗の文化などトータルで酒を楽しむ場合にはワイン以上に楽しめるし、文化レベルも高いと思います。酒だけを楽しむのであれば吟醸酒だけで良いのかもしれませんが、より奥深い日本文化を楽しむためには吟醸酒だけでなく、様々なタイプの日本酒を知って頂きたいですね。特に関西の出汁文化と日本酒の相性、茶事に代表される食文化など、もっと奥行きのある日本酒の楽しみ方を知って頂けると、日本酒をもっと誇りに思えるのではないでしょうか。その一端を担える日本酒造りに携わる事が出来るのは光栄ですし、まだまだ日本酒は進化すると思っています」

文化的な背景、繋がりを知ることで、より日本酒の持つ魅力を感じ、奥深さに触れてもらえるはず。造り手として、日本酒だからこその可能性をこう見出していらっしゃいます。

海外では、韓国、オーストラリア、シンガポールなどアジアを中心に展開されていますが、特に韓国への輸出は全量生酒というから驚きです。年々輸出量も増えており人気とのことで、生酒の管理もしっかりされているようです。生産量としても、篠峯ブランドの半分ほどは生酒。昨年から少しずつ常温と低温で熟成させる試みも始めています。

米の個性がどのように花開くのか。これからも続く篠峯らしさの追求を、一緒に追いかけていける。日本酒ファンとしての楽しみが、またひとつ増えました。

 

取材・文/あおい有紀

【あおい有紀の〈気になる日本酒〉】一覧記事はこちら
http://www.premium-j.jp/yuki-aoi/

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 あおい有紀

フリーアナウンサー・和酒コーディネーター

テレビ、ラジオなど各媒体で活躍する一方、日本の食や和酒の魅力発信を積極的に行い、大切さ、楽しみ方を伝えている。フィールドワークを信条とし、全国の酒蔵に200回以上足を運ぶ。酒蔵ツアーや日本文化×日本酒のコラボイベント、様々な国籍の料理×日本酒のマリアージュイベントなどの企画・主催をはじめ、各地での講演、セミナー講師多数。ル・コルドン・ブルー日本酒講師。観光庁「平成25年度 官民協働した魅力ある観光地の再建・強化事業」にて、目利き役。女性向け日本酒本「日本酒日和」(舵社)監修。日本酒造青年協議会「酒サムライ」叙任。 

【資格】きき酒師、焼酎きき酒師、WSET(International Higher Certificate in Wines and Spirits)、一級フードアナリスト、日本箸教育講師など

 

 

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