くどき上手Jr. 初搾り生酒〜Love at first sight〜:「気になる日本酒」 vol.14 あおい有紀

2016.01.22

 

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人の心を溶かすお酒“くどき上手”

「くどき上手」を醸す亀の井酒造は、創業明治8年。山形県鶴岡市羽黒町にあり、田んぼが広がる庄内平野の向こうには、古くから山岳信仰や修験道の霊峰として知られる「出羽三山(羽黒山、月山、湯殿山)」が連なり、風光明媚な景色に目を奪われます。自然の恵みをたっぷり受け、仕込み水として使っている柔らかい月山の伏流水、また風土が、吟醸造りの環境を育んでいます。

地元では、「亀の井」という銘柄で長年親しまれてきましたが、5代当主の今井俊治社長(65)が、昭和58年に「くどき上手」ブランドを立ち上げました。歴史に詳しい奥様の、「豊臣秀吉は、敵の武将までも武力ではなく誠意を持って説得し、味方に変えていった。お酒も心を溶かすように魅了でき、好きになってくれる人が増えるといいですね」というお話から、今井社長が命名。東京農大を卒業後、当時珍しい蔵元自らが杜氏となり、酒造りに携わりました。

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酒蔵の2階から見た風景

 

現在2000石で、くどき上手はすべて吟醸造り。熱い情熱を持ち、酒蔵の仲間内からは“総長”と呼ばれるほど、厳格な姿勢で造りにも携わっておられます。さまざまなお米の表情、輪郭を酒に表現したいと、今年も16種類の酒米を使用しポテンシャルをどこまで引き出せるか、可能性を追求。また、より高品質の酒を造るため、瓶詰めラインなど設備投資にも力を入れながら、清潔感溢れる整理整頓された蔵の様子からも、酒造りへの真摯な姿勢が感じられました。

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亀の井酒造外観

 

心身を追い込むまで酒造りを追求する、“ジュニア”の冬

このくどき上手ブランドの造り手として2代目となるのが、長男の今井俊典専務(32)。

「そもそも、日本というか、自分の故郷である山形に嫌気がさして、20代前半に渡米しました。英語を学んだり3年ほどアメリカにいましたが、日本に戻った時、降り立った空港の奇麗さ、日本人の対応、民族、文化力の高さに、生まれて初めて感銘を受けたんです」。

一度外に出たからこそ実感した、日本人としての誇りを持ち、蔵に入ります。造り1年目から、酒造りの心臓部分でもある麹造りの責任者を任されることに。その酒が2年目にして全国新酒鑑評会で金賞を受賞し、自信にも繋がっていきますが、酒造りは微生物という生き物を扱う、とても繊細な現場。「酒造りは人間の修行の場」という今井専務のモットーは、油断をしないこと。そして、最初から最後まで微生物の面倒を見てあげること。特に新酒鑑評会用の大吟醸を造る1月から2月にかけては、平均睡眠時間も2時間の日が続きます。極限までストイックに、緊張感から食も喉を通らず、造りの時期は毎年7~8kg痩せるほど。結果を出すため、そこまで身を削っての酒造りは、まさに職人としての高い意識からくるものなのでしょう。

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麹室で作業する今井専務(左)

 

いつからか、業界内でJr(ジュニア)と呼ばれるようになっていた今井専務。取引先の酒販店や飲食店など、どこに行っても親父の話になり、親父の足あとがそこにはある。存在は大きく、「あと20年は現役を続ける」と言う父とは酒造りにおいて意見がぶつかることもよくあるそう。

今井専務のなかでは、「親父という感覚はなく、仲が良くない先輩みたいな感じ、でしょうか!? 学ぶところが多く、いい刺激をもらっていますが、負けたくはありません。自分だからこそできることは何か、ここ3年ほど特に真剣に考えています」と。

強気ながらも、今井社長の大きな背中から感じる様々なメッセージを汲み取り、たまに反発するエネルギーもまた、酒造りへの原動力となっているようです。

「くどき上手」のなかでも、造りのすべてを今井専務自身が管理しているのが、「くどき上手Jr.シリーズ」。今期で6年目となるこのシリーズですが、「目指すところは、目でも味でも楽しんで頂けるように、まずラベル、ルックス、ボトルの立ち振る舞いにも工夫をし、自分の個性を出しています」と今井専務。

今井社長の造るくどき上手は、吟醸香が華やかに、アルコール度数17%のがっちりタイプですが、くどき上手Jr.は、同じく華やかな香りながら、アルコール度数16%で、後味の軽快さを意識して造っています。そして、「くどき上手」ではできない造りのチャレンジの場として、毎年彼が思い浮かんだ新たな試みを、酒として表現しています。

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洗米のあと、水に浸漬し給水の具合を確認しているところ

 

日本酒ファンも楽しみにしているこのJr.シリーズのなかで、今回ご紹介するのは「くどき上手Jr. 初搾り生酒〜Love at first sight〜」。播州山田錦の特別栽培米使用した、精米歩合45%の冬季限定純米大吟醸です。今年で2年目となる取り組みですが、より手間をかけた新酒鑑評会用の大吟醸と同じ酒母から造られている贅沢な一本。生酒ならではのジューシーでプリンスメロンのような香り、甘味、まさに一目惚れのようなキュンとする酸味も感じられて、日本酒にあまり馴染みのない方でも、一瞬で虜になってしまいそうな味わいです。今年は1月25日発売、ぜひ手にとっていただきたい旬のお酒です。

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日本酒オーシャンズのイベントに参加する今井専務

 

「これからも、くどき上手Jr.の発展を考えながら、通常のくどき上手、ばくれんの品質向上の為にも、例えば香りがより引き出せる二段仕込みや、無駄な圧力がかからない独自の搾り機械の考案、アルコール度数を20度まで濃縮させる凍結濃縮酒など、新たな試みも次々と考えています」と今井専務。

昨年は、より新たな層に向けて日本酒の魅力を伝える為に、超個性派若手蔵元10蔵で日本酒クルージングパーティーを主催。この「日本酒オーシャンズ」の発起人もつとめるなど、日本酒全体のボトムアップの為に尽力しています。

趣味は、「自然に遊んでもらうのが好き」というひとりでの山登り。行く先に邪魔する岩が現れたら、それをどうクリアするか、出たとこ勝負ではありますが、生きていくすべを自然から教わることも沢山あるといいます。益々これからが楽しみな、「くどき上手」、そして今井専務の活動。ひたむきな野心、情熱溢れる若きパワーで、新たな世界を切り開いてくれることでしょう。

 

取材・文/あおい有紀

【あおい有紀の〈気になる日本酒〉】一覧記事はこちら
http://www.premium-j.jp/yuki-aoi/

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 あおい有紀

フリーアナウンサー・和酒コーディネーター

テレビ、ラジオなど各媒体で活躍する一方、日本の食や和酒の魅力発信を積極的に行い、大切さ、楽しみ方を伝えている。フィールドワークを信条とし、全国の酒蔵に200回以上足を運ぶ。酒蔵ツアーや日本文化×日本酒のコラボイベント、様々な国籍の料理×日本酒のマリアージュイベントなどの企画・主催をはじめ、各地での講演、セミナー講師多数。ル・コルドン・ブルー日本酒講師。観光庁「平成25年度 官民協働した魅力ある観光地の再建・強化事業」にて、目利き役。女性向け日本酒本「日本酒日和」(舵社)監修。日本酒造青年協議会「酒サムライ」叙任。 

【資格】きき酒師、焼酎きき酒師、WSET(International Higher Certificate in Wines and Spirits)、一級フードアナリスト、日本箸教育講師など