岡山県美作 上山集楽の棚田米:「お米が主役」vol.13 柏木智帆

2016.01.26

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活気溢れる棚田のお米 昔ながらのフクヒカリ

岡山県美作市の上山地区には、およそ60ヘクタール、大小あわせて約8300枚もの田んぼが広がる棚田があります。

農村や棚田というと高齢化が著しく担い手不足だというイメージがありますが、ここでは元気な若者や中高年たちが農作業に従事する姿が見られます。活動主体は「一般社団法人 上山集楽(うえやましゅうらく)」。地域住民の協力のもと、移住者たちが棚田をベースに地域全体を盛り上げようと日々奔走しています。

この棚田では、「フクヒカリ」という品種のお米を天日干しでつくっています。上山集楽代表理事の西口和雄さんによると、昭和初期に上山地区でつくられていた品種だそう。食べてみると、もっちりとして甘みがあり、現代でも十分に好まれそうな味です。

平地の田んぼでも手間と労力がかかる無農薬栽培。棚田で行うのは並大抵ではありません。池から棚田に水を引いている水路の維持も一苦労。基本的に暗渠ではなく露地の土掘り水路のため、定期的な清掃が欠かせません。そして、上山地区では、あえて道路の拡幅工事はしないそうです。「本来、こういう原風景には車が入ってこないのが理想なんです」と西口さん。かつてつくられた田んぼや水路、農道がそのまま残され、生態系が維持されてきた上山地区。そして今、彼らが日々の農作業することによって、その生態系が引き続き維持されているのです。

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放棄されていた棚田を野焼きで再生

とはいえ、上山地区の棚田は長年にわたって耕作放棄されていました。

しかし、2007年9月から8年かけて、全面積の棚田のうち3分の1ほどにあたる約20ヘクタールの田んぼを再生しました。

上山集楽がこの地で棚田を中心に活動し始めたきっかけは、大阪府での異業種交流会から始まった協創有限責任事業組合の一プロジェクト。田舎暮らしを体験しようと、選んだ土地が上山地区でした。西口さんが1990年代から上山地区の山を買って林業を営んでいた縁もあり、上山地域でのプロジェクトがスタートしたのです。

「僕たちは田んぼをやるために来たのではなく、むしろ農業というものに興味がない人間ばかりでした。だから、当初は米をつくるなんて全然考えていませんでした」と西口さん。荒れ果てた棚田を燃やせば手っ取り早くきれいになるだろうと野焼きをしていたところ、「お米つくったら、おいしいんやで」と地域に住むお年寄りが教えてくれたことがきっかけとなり、稲作を始めたというのです。

ところが、棚田の再生は一筋縄ではありません。長年にわたって耕作放棄地となっていた田んぼは笹だらけ。笹の根は地面の中をはいめぐるため、田んぼの水が抜けてしまいます。野焼きは、その笹を取り除くための方策でもありました。田んぼを焼いて蕎麦の種をまくことで、笹の根の成長力を抑えます。焼いた田んぼで牛に笹の新芽を食べ絶やしてもらい、3年経ってやっと耕作できるようになるそうです。そうして、一枚一枚、地道に田んぼを再生し、今では年間10トンものお米を生産するまでになっています。

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1975年

 

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2015年

 

棚田をベースにした多角的な活動、8300枚の田んぼを復活へ

こうした彼らの活動に魅力を感じ、首相夫人の安倍昭恵さんや、ロックフェラー財団のデビッド・ロックフェラー・Jr.とスーザン・ロックフェラー夫妻などの著名人をはじめ、多くの人たちが彼らの棚田を訪れています。

2016年1月には、地域の観光交流・地域活性化の取り組みを支援・推進しているJTB交流文化賞を受賞。また、2016年1月からは、上山地域の生活を豊かにして経済を活性化するために多様なモビリティを導入するプロジェクトがスタートしました。一般財団法人トヨタ・モビリティ基金から4年間にわたって助成を受けることになっています。超小型EV(電気自動車)を導入することで、中山間地域での移動手段を日常生活や農林業、観光などで活用していきます。たくさんの人を巻き込むことができるのは、棚田そのものの魅力と、彼らの活動に人を惹き付ける魅力が詰まっているからです。

少しずつ田んぼを再生させてきた上山地域。2015年秋には、1970年代に撮影された白黒写真の「はぜ掛け(天日干し)」風景を23年ぶりに復活させることができました。「徹底的に開墾して2019年までには8300枚すべてを復活させたい」と西口さん。実現に向けて、多角的な取り組みを進めています。

「上山地区には、すさまじい価値があるのです」。西口さんは、一枚一枚の田んぼをつくった先人の手仕事に敬意を抱いています。棚田をつくる石垣も、先人が一つ一つ石を積み上げたもの。棚田には「究極のアートがある」と言います。「こういうところでつくった米がまずいわけがないでしょう」という西口さんの言葉に、妙に納得です。

 

■お問合せ
一般社団法人  上山集楽
http://ueyama.shu-raku.jp/contact

「上山集楽の棚田米」
価格:1キロ1000円
http://ueyama.shu-raku.jp/

写真提供:一般社団法人 上山集楽

 

取材・文/柏木智帆

【柏木智帆の〈お米が主役〉】一覧記事はこちら
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 《プロフィール》

柏木智帆

フリーランスライター。元神奈川新聞記者。お米とお米文化の普及拡大を目指して取材活動をする中、生産の現場に立つために8年勤めた新聞社を退職。2年にわたって千葉県で無農薬米をつくりながらおむすびのケータリング屋を運営。2014年秋からは消費や販売に重点を置くため都内に拠点を移して「お米を中心とした日本の食文化の再興」と「お米の消費アップ」をライフワークに活動。神奈川新聞契約ライター。「日常茶飯」をテーマにお米とお茶のお取り寄せサイト「和むすび」(http://www.wa-musubi.jp)を運営

 

 

 

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