麻布十番 天ぷら たきや:「食の王道」vol.12 広川道助

2016.01.28

 

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大吟醸やブルゴーニュにぴったり!
軽い食感が嬉しい、新時代の天ぷら「たきや」

10年ほど前に、都内の天ぷら屋の数は寿司屋の10分の1ほどと聞きました。が、肌感覚でいえば、いまはもっと離れているような気がします。

しかしここ数年、外国人観光客の増加で天ぷら屋に注目が高まっています。銀座の高級天ぷら屋の主人は「ここ数年、お客さんの7割は外国人です」と話し、シャンパンを多く揃え、客が頼む銘柄によって揚げる天ぷらの順番を変えてくれる店も出てきました。かつては店に入ると、胡麻油の匂いがぷーんとただよったものですが、棉実油主体の軽い揚げ具合の天ぷら屋も増えており、「天ぷら新時代」を予感させます。

私自身は、胡麻油を使った昔ながらの魚介類中心の天ぷら(江戸時代の天ぷら屋台では、野菜を揚げなかった)によく行きますが、若い友人と「こんな天ぷらがあるのか」と美味しい驚きを味わいたいときに行く「新時代の嚆矢」が、麻布十番「たきや」です。

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主人の笠本辰明さんは長年、東京ミッドタウンにあるホテル「ザ・リッツ・カールトン東京」の日本料理「ひのきざか」総料理長を務め、昨年夏に独立しました。リッツ・カールトンの天ぷらコーナーが開店直後から人気だったのは知っていましたが、牛肉やチーズを使った変わり種の天ぷらが名物と聞いて、当初は食指が動きませんでした。

しかし「たきや」開店直後に訪れ、食感が軽く、胃もたれのしない天ぷらに感激したのです。食感が軽いのは一番搾りの紅花油を使っていることもありますが、彼が独学で天ぷらを研究し、どうしたら旨くできるかを考え抜いたからでしょう。

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驚いたのが椎茸の天ぷら。これまで食べてきた天ぷらは椎茸のジューシーさを味わせるため、ふんわりと揚げたものばかりでしたが、笠本さんはかりかりになるまで火を通すので、出てきた椎茸はあまりにも貧相な姿。しかし、食べてみるとそのほうが、凝縮した椎茸の旨みを感じられるのです。

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リッツ・カールトン時代からの名物、トリュフ塩でいただく「和牛ヒレ肉の紫蘇巻揚げ」も笠本さんならではの味です。上質のヒレ肉を目の前で紫蘇に巻き、短時間でレアに揚げたそれは、肉汁が口の中にあふれ、さっぱりとした紫蘇が脂を断ち切ってくれます。過去のしらがみを排し、「旨いとはなにか」だけを考えたからこそ出来上がった天ぷらです。

店内は8席のカウンターと個室。カウンターもゆったりとした設えですが、奥の6人まで入れる個室がベストポジション。顔が刺すことを気にせずに楽しめます。酒も日本酒、焼酎、ワインと揃っていますが、個人的には大吟醸やブルゴーニュワインに合う天ぷらだと思います。

〆の穴子天丼もお見事。一口食べて、甲殻類の甘くて濃厚な香りを感じたのですが、海老味噌ベースの汁を使っているとか。ほかにも豚肉チーズ巻や雲丹の海苔巻など、独創的な天ぷらを10品程度いただき、合間にこれまた絶品の日本料理もはさんだというのに、また最初から食べられるほどの軽い食感。なるほど新時代の天ぷらです。

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「たきや」
住所:東京都港区麻布十番2-5-11 AZABU MAIZON 201
電話:03-6804-1732
営業:17:30〜22:00
定休日:不定休
料金:コース 2万円

 

《プロフィール》

広川道助

学者の家系に育つ。西欧で一時期を過ごし、早い時期から食の世界を志す。20代はフレンチに凝ったが、その後、日本料理の深遠さに目覚め、ここ数年は和食全般を系統だてて食することにこだわる。伝統芸能や茶道も齧るが、これまたあまりに深いので、いまだ入口あたりをちょろちょろ。昨年、若いころに通いながら、最近ご無沙汰だった料理店の主人が相次いで亡くなったのが後悔してもしきれなかったので、今年は円熟の料理人を訪ね歩き、しっかり頭に刻んでおこうと考えている。

 

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