萩の鶴 純米大吟醸 試験醸造酒 生原酒 シャンパングラスラベル:「気になる日本酒」 vol.15 あおい有紀

2016.01.29

 

aoi015-01
東日本大震災を乗り越え、進化する酒造りを

宮城県栗原市にある旧奥州街道有壁宿。その昔、参勤交代で幕府や各藩の重臣が宿泊や休憩をするための旅籠が設けられていましたが、今も重要文化財として残る有壁本陣が本家という、その斜め向かいに萩野酒造はあります。1840年(天保11年)創業、蔵の脇には川が流れ、山と田んぼに囲まれた、歴史を感じるのどかな里山の風景が広がっていました。

東日本大震災の時は1週間停電し、もろみの温度管理や搾る作業に苦労され、4月7日の最大余震の際には、酒瓶が数千本も割れ、蔵も大きく傾くなど更なる被害を受けました。崩れたり傾いたりした蔵の補修をしたものの、今後も大地震が発生する可能性のある地域であることを踏まえ、現在は苦渋の決断によって新築した酒蔵で酒造りを続けています。

aoi015-02
重要文化財の有壁本陣。萩野酒造主催で、この田んぼで田植え、稲刈り体験も開催しています。

今期の造りは700石、1月から2月にかけて、この時期は特に吟醸造りに力が入ります。家族とともに中心となって酒造りに携わっているのが、8代蔵元の専務取締役、佐藤曜平さん(36)。東京農大卒業後、蔵に戻り、「いいものを少しだけ造る」というコンセプトのもと、萩の鶴、日輪田(全量山廃造り)の2ブランドで、日本酒独自の伝統や歴史を守りながら新しい技術も取り入れ、常に進化する酒造りを目指しています。

自身の酒造りについて、「ライフワークでしょうか。設計通り、思い通りの味わいになり、それをお客様に喜んでいただけた時に、酒造りの楽しさを感じますね。心がけていることは、人の口に入るものですから、まずは清潔な蔵内の維持です」と言うように、菌や酵母といった自然を相手にするため、麹米造りの際はゴム手袋をするなどし、オフフレーバーの要因を極力作らないよう、清潔な環境作りを徹底しています。

aoi015-03
8代蔵元の専務取締役、佐藤曜平さん 

 

幅広い層に楽しんでもらいたと開発された、新しいタイプのスパークリング清酒

生産する日本酒のほぼ全量が純米造りで、酒米は、宮城県の推奨品種にもなっている美山錦が一番多く、山田錦、五百万石、蔵の華なども使用しています。蔵元自らが飲んで、「本当に美味しい!」と思える酒を造りたいと、料理を引き立てながらも、料理とともに記憶に残るような個性ある味わいを追求。

rd850_aoi_A
麹室で米麹を造っている様子

香りは派手すぎず、穏やかな飲み口で心地よい酸味をイメージし造っていますが、ある時、「宮城県の日本酒はとてもキレイで食中酒向きだと言われているけれど、お客様によっては全体的にインパクトに欠けると感じる方もいるんだよね」と酒販店から言われたことがきっかけで生まれたのが、今回ご紹介する「萩の鶴 純米大吟醸 試験醸造酒 生原酒 シャンパングラスラベル」です。

ラベルデザインからしてインパクトがありますが、酒造好適米の五百万石を使用し、精米歩合は50%。ラベルからもイメージできるようにスパークリング清酒ですが、開栓する時は要注意! 瓶内二次発酵で炭酸ガスが元気なので、吹き出さないようにゆっくり開栓することをおすすめします。

うすにごりで口に含んだ瞬間、シュワっと弾ける泡と共に、甘酸っぱい味わいが爽やかに広がります。多酸性酵母を使っているだけに、甘味、旨味も感じながら高い酸味でキレのよい余韻を楽しめますよ。

通常日本酒は、原酒でアルコール度数16~20度のものに加水して度数を下げますが、このお酒は原酒にしてアルコール度数14度。度数の低い原酒でバランスの取れた美味しい日本酒を造るには高度な技術を要し、現在多くの蔵元がチャレンジをしていますが、完成度はまだ低いと言われています。そんななか、佐藤さんは2012年からこの試験醸造酒を造り始め、2013年に「ワイングラスで美味しい日本酒アワード」にて最高金賞、翌年は「IWC2014 スパークリングSAKE部門」にて、リージョナルトロフィーを受賞し、世界的にも認められた実力派の味わいです。

冷たく冷やしてシャンパングラスで、食前酒として頂くのがおすすめですが、「シンプルなタコのカルパッチョや、あっさり目の白身魚のバターソテーのようなお料理に合うと思います。自分で飲むときは、オリーブやナチュラルチーズを合わせますよ」と佐藤さん。これまで日本酒に興味が無かった、という層に向けてPRしたいと誕生した一本は、女性が集まるパーティーや華やかな場にふさわしく、洋食との相性を探求するのもまた、楽しみが広がります。

 

宮城県の日本酒品質向上、次世代に向けて

rd850_aoi_B
麹室での佐藤曜平さん

佐藤さんは宮城県の7蔵元が、日本酒の新たな可能性に挑戦するために立ち上げたプロジェクト、「DATE SEVEN(伊達セブン)」での共同醸造に参加して技術交流を深めたりと、蔵元同士の交流にも積極的。「みんな本当に真面目かつ個性的で常に上を目指して努力しているので、刺激を受けることも多く、色々と勉強させていただいたことを自らの造りにも生かしています」と話します。

佐藤さんの肩肘張らず自然体で、ユーモア溢れるトーク、人柄は、業界内だけでなく、日本酒ファンからも大人気! そのセンスが、酒造りやラベルデザインにも生かされています。造りの間は大好きな納豆を断ち(納豆菌は特に麹米作りに悪影響を与える強い菌で、蔵内に持ち込むのはご法度)、造りに集中。長い酒造りを終えた春、半年ぶりに食べる納豆ご飯が、世界で一番美味しい食べ物だそうですよ。

「将来は、採算を考えないで好き勝手な酒造りをしながら遊んで暮らしたいです(笑)」と言いつつも、「高品質な商品を安定して提供できる体制や、若い世代の蔵人がやり甲斐を持って酒造りができる環境を整えていきたい」としっかりビジョンを語る佐藤さん。宮城県酒造組合の需要開発委員長としての顔も持ち、宮城県全体の日本酒の酒質向上のための研究開発、魅力発信にも力を入れながら、若手蔵元を代表する一人としても、これからの益々の活躍が楽しみでなりません。

 

取材・文/あおい有紀

【あおい有紀の〈気になる日本酒〉】一覧記事はこちら
http://www.premium-j.jp/yuki-aoi/

1618001

 あおい有紀

フリーアナウンサー・和酒コーディネーター

テレビ、ラジオなど各媒体で活躍する一方、日本の食や和酒の魅力発信を積極的に行い、大切さ、楽しみ方を伝えている。フィールドワークを信条とし、全国の酒蔵に200回以上足を運ぶ。酒蔵ツアーや日本文化×日本酒のコラボイベント、様々な国籍の料理×日本酒のマリアージュイベントなどの企画・主催をはじめ、各地での講演、セミナー講師多数。ル・コルドン・ブルー日本酒講師。観光庁「平成25年度 官民協働した魅力ある観光地の再建・強化事業」にて、目利き役。女性向け日本酒本「日本酒日和」(舵社)監修。日本酒造青年協議会「酒サムライ」叙任。 

【資格】きき酒師、焼酎きき酒師、WSET(International Higher Certificate in Wines and Spirits)、一級フードアナリスト、日本箸教育講師など

 

Area