グルメ

渋谷 焼き鳥 鳥福:「食の王道」vol.14 広川道助

2016.02.11

 

「のんべい横丁」の焼鳥レジェンド「鳥福」、
早い時間は野鳥や銘柄鶏を、閉店間際は裏技料理を楽しむ

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昔の渋谷「のんべい横丁」は一杯飲み屋が立ち並び、入るのに躊躇する店もありましたが、この十年で代替わりし、バーや創作料理店などの小洒落た店が多くなりました。

ただ、その手の店にはとんと縁がないので、この横丁でうかがうのは焼鳥「鳥福」だけです。二間ほどの間口で、一階、二階ともにカウンターだけ。多くても15人くらいで精一杯でしょう。最近は予約も取るようになったそうですが、たいがいの客はふらっと訪れて席の按配をたしかめます。狭い店内ですから、高歌放吟する団体客はおらず、みな酒と鶏の旨さを味わっています。最近は女性の一人客も多くなりました。

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ビールを頼むと、瓶とともに錫のグラスが出されます。最近は薄いガラス製の「うすはり」を使う店が多くなってきましたが、錫はガラスと違い、いつまでも冷たさをキープしてくれ、そんな心遣いがこの店の目立たないこだわりなのです。

二代目となる主人の村山茂さんは60代後半。先代は屋台を引いていたそうで、戦後に横丁が出来た当初から、ここに店を構えている「レジェンド」的な店なのです。当代が店を継いでからも、もう50年以上。妹と息子の3人で切り盛りする家族経営です。

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酒肴などなにもなく、最初から焼物。なにしろ肉が痩せる8月は一ヶ月休んで全国の養鶏所をまわるという事実からも、この店の鶏肉への愛情がわかるでしょう。

旨い焼鳥屋はみなそうですが、内臓類が抜群です。特に浅めに焼いたレバーは必食です。そして銘柄鳥の正肉の食べ比べもここの楽しみのひとつ。東京軍鶏や水郷赤鶏、ロードアイランドレッド、山田比内鶏、高原比内地鶏など、入荷次第ではありますが、必ず数種類用意されており、同じ鶏肉でも旨みや硬さがこんなにも違うのか、驚くこと必定です。

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冬は野鳥。11月の解禁を待って、真鴨、小鴨、青首鴨などが登場しますが、こちらは大将おすすめのタレで。引き締まった肉ながら、噛み締めると旨みがじんわり感じられ、ちょろりで出てくる燗酒が似合います。

ビールと酒で焼鳥を4、5本つまんで1時間というのがここの適正滞在時間でしょう。焼鳥屋は長居する場所ではないですから。となると悩ましいのが、訪れる時間帯です。4時半からスタートなので、お目当てのものを食べたいなら6時までに行かないと売り切れてしまう可能性もありますが、そうすると7時には満腹です。

私は7時以降に訪れることが多いのですが、それは品切れリスクはあるものの、その時間にならないと食べられないものがあるからです。「じゃがいものスープ煮」です。

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この店の鶏スープは、じゃがいも、人参、たまねぎも一緒に煮込んでいるのですが、遅めの時間になると、野菜出汁がスープに充分溶け込んだため、頼めばその野菜をアテに出してくれるのです。出汁殻とはいえ、鳥福のスープを吸った野菜類はほくほくで、焼鳥の〆に最高。私はじゃがいもを所望することが多いのですが、この裏技、鳥福詣での隠れた楽しみとなっています。

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「鳥福(とりふく)」
住所:渋谷区渋谷1-25-10 のんべい横丁
電話:03-3499-4978
営業:4時半から9時頃まで
土曜は4時から9時予約制2部制。
平日は混雑時は予約1時間半。
定休日:第3土曜日祝
席数: 1階、2階あわせて最大15席
予算:5000円から
(青首、子鴨は要お問い合せ)

 

《プロフィール》

広川道助

学者の家系に育つ。西欧で一時期を過ごし、早い時期から食の世界を志す。20代はフレンチに凝ったが、その後、日本料理の深遠さに目覚め、ここ数年は和食全般を系統だてて食することにこだわる。伝統芸能や茶道も齧るが、これまたあまりに深いので、いまだ入口あたりをちょろちょろ。昨年、若いころに通いながら、最近ご無沙汰だった料理店の主人が相次いで亡くなったのが後悔してもしきれなかったので、今年は円熟の料理人を訪ね歩き、しっかり頭に刻んでおこうと考えている。

 

【広川道助の〈食の王道〉】一覧記事はこちら

http://www.premium-j.jp/dousuke-hirokawa/

 

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