奥鹿 山廃 山田錦六○ 無濾過原酒:「気になる日本酒」 vol.18 あおい有紀

2016.02.19

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米作りから酒造りまで、“一貫造り”に取り組む大阪の純米蔵

2月半ば、まだまだ寒い日々が続くなか、1杯飲みたくなるお燗酒。冷え切った体にじんわり染みわたり、ほっこりした気分にさせてくれる。あの瞬間がたまらずに、つい1杯、そして2杯、3杯と進み、心地良い酔いへと誘ってくれる甘美な世界。今回は、ちょっと上級者向けの、お燗酒におすすめな日本酒をご紹介します。

大阪にも日本酒の酒蔵があるのをご存知でしょうか? 豊能郡能勢町にある秋鹿酒造は、1886年(明治19年)創業。山に囲まれた海抜250mの盆地で、のどかな棚田の風景が広がります。能勢の名水でもある、歌垣山から流れる軟水の伏流水を仕込み水として使用。

6代社長の奥 裕明さん(60)のもと、平成15年からは全量純米蔵としての造りをしており、さらには米作りにも力を入れています。昭和60年に自営田を持ち山田錦の低農薬栽培を始め、20年前からは無農薬栽培の田んぼを徐々に増やしていきました。現在は15ヘクタールすべてで、無農薬、無化学肥料で山田錦を栽培しています。

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米作りを任されている秋鹿酒造の次男の奥 航太朗さん。自営田の前で

肥料は、籾・米糠・酒粕を肥料とする“循環型無農薬有機栽培”というもので、自然の力を生かした米作り、酒造りを目指しているとのこと。稲穂が太陽の光をたっぷり浴びられるようにと、通常の田んぼより間隔をあけて作付しています。奥社長が、日本酒造りの設計など蔵元杜氏としての役割を持ち、次男である奥 航太朗さん(26)は、米作りの設計、計画、現場での作業なども任されながら、6年目の今期から酒母造りなど酒造りにもメインで関わるようになりました。

私が蔵に伺った昨年8月、案内頂いた自営田では日陰など一切なく、容赦なく照りつける灼熱の太陽の下、吹き出る汗をタオルで拭いながら黙々と草取りを続けるという状況。女性を含む3名の蔵人やお手伝いの方がおられました。朝から日が暮れるまで、50枚ほどある広い田んぼの雑草を取るために、毎日気が遠くなるようなこの作業を炎天下のなかで続けていると聞き、大きな衝撃を受けました。ここまで愛情をかけ、丹精込めて作られた米、そしてお酒を、感謝なくして頂くことはできないな、と改めて実感したのです。

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真夏の自営田での草むしりは、汗がとまらない重労働

航太朗さんは、「無農薬で栽培する理由は、農薬を使うことへ危険を感じているという部分が大きいです。虫を殺したり草を枯らせるものが、人体に悪影響がないわけがありませんし。また、化学肥料をやることで土壌の有用な微生物が死んでしまい、米のタンパク質が増えるので、酒米にとってはよくないと考えています。米の品質を考えた結果、無農薬、無化学肥料にたどり着きました。いい原料を作れば、良い酒ができるので、あまり思い入れすぎないように、でも特別な思い入れを持ってやっています(笑)」と笑顔で話します。

自然を相手にする仕事。米作り、酒造りの“一貫造り”を通じて、自然の力に人はかなわない、というのが一番感じるところだと言います。幸運にも、昨年は天候、米のでき共に上々で、雨が必要なときに雨が降り、乾いて欲しいときに晴れが続いたそう。お盆明けからの冷え込みだけが気になるところだったとのことで、自然の力にある程度左右されるのは仕方がないと思うのと同時に、そのブレをなるべく縮めるのが人の力だと考えているそうです。

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