グルメ

四谷 とんかつ 三金:「食の王道」vol.17 広川道助

2016.03.03

 

四ツ谷で70年続く老舗とんかつ「三金」で
東京の料理屋の「粋」について考える

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料理店には、各々のジャンルにおける「分」というものがある、と私は思っています。

誤解を恐れずにいえば、焼鳥屋やラーメン屋を訪れるのに、予約をしていく、紹介者がいなくては入れない、並ばないと入れない、というのは普通ではないと思うのです。

しかし最近都内には、予約一年待ちの焼鳥屋、同じく数年待ちの寿司屋、整理券を配布しているラーメン屋などといった店が多くなっています。私もミーハーですから、そういった店であっても一度は行こうと思っていますが、そのあとで本当に良かったかと問われたら、疑問がある店だった場合は多い。

とんかつ屋もそうです。さすがに予約が数か月先までいっぱいという店は聞いたことはありませんが、開店前から並び、入るまで30分以上かかる店やら、最高級の豚肉を使っていて一枚1万円以上する店など、ハードルの高い店は都内にいくつもあります。

グルメが白熱化すると、人は微妙な差異をことのほかあげつらって、自分がその違いがわかる人間であると見せようとします。私は「とんかつ」という料理を卑下するつもりはないし、揚げる時間、肉の旨味でとんかつの出来上がりがまったく違ったものになることも承知しています。しかし、とんかつの「分」は、そこまでのものじゃない。喰いたいと思ったときに行け、気分よく過ごせることが、とんかつ屋の「粋」ではないかと思うのです。 

四谷にある「三金」は、1946年に出来た庶民的なとんかつ屋です。以前は四ツ谷駅前の角にありましたが、オーナーが廃業を決意した際に、職人たちが暖簾を譲渡してもらい、近くに移転した……つまり経営は変わったわけですが、味や雰囲気は、少なくとも私が通い始めた30年間、変わりません。 

 

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