超個性派の10蔵元が、“日本酒オーシャンズ”を結成

2015.10.01

Photo/Naoko Maeda Text/Tomoko Oishi

日本酒界の次世代のスターたちが東京湾でクルージングイベントを開催

さる9月12日、さらなる日本酒ブームを予感させる、規格外のイベントが東京湾上にて行われた。それは、普段はまったく群れることのない超個性派蔵元10社が集結したクルージングパーティー。その名も“日本酒オーシャンズ”だ。この日は、海の上で厳選の旨い酒が呑めるパーティーであったと同時に、日本酒界の気鋭10人による日本酒オーシャンズ結成の始動日でもあった。全国から集まった、あり得ない顔ぶれは以下のとおり。

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『七本槍』 富田泰伸さん(滋賀)
『くどき上手』今井俊典さん(山形)
『義侠』 山田昌弘さん(愛知)
『而今』 大西唯克さん(三重)
『蒼空』 藤岡正章さん(京都)
『手取川』 吉田泰之さん(石川)
『田中六五』 田中克典さん(福岡)
『乾坤一』 久我 健さん(宮城)
『真澄』 宮坂勝彦さん(長野)
『仙禽』 薄井一樹さん(栃木)
※前列右→左、後列右→左の順

日本酒ファンなら惹かれざるをえない豪華メンバー。ファンならずとも、これらの酒を飲めば日本酒を好きになるであろう確かな実力のある10蔵元。銘柄だけでも驚くけれど、会場ではさらに意外なことが。この10人、みな若く男前揃いなのだ。

“くどき上手”によって集められた10人の蔵元

発起人は、山形県鶴岡市にある亀の井酒造専務取締役の今井俊典さん。構想は2年前にさかのぼる。今井さんは始めから、日本酒オーシャンズでは次の条件に該当する蔵元に声をかけると決めていた。「酒が旨いこと、男前であること、刺激しあえる相手であること」だ。ぴったりとはまる人選に2年をかけた。ビジュアル重視というユニークな理由を、今井さんはこう語る。
「日本酒オーシャンズ自体を、テレビや雑誌、情報媒体の代わりとなるメディアとしたいんです。日本酒にはまだまだ難しくて堅いイメージがあって、呑まない人にとっては最初の入りがすごく大事。それで日本酒の良さを伝えるためのフックとして、見た目のよい若手を揃えました」
その言葉どおり、白いパンツを爽やかに履きこなしている男性もいれば、金髪にボウタイの男性、モデル風からEXILE風の男性まで、その見た目は想定外にいまどきでしゅっとしている。

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「例えばドラマだって、ルックスのいい俳優が揃っていると数字がとれたりもしますよね。この日本酒オーシャンズでも、格好よくてブランド力のある人と一緒に日本酒のことを発信していきたいんです。結果的に、歴史もハートもある10人が揃ったと思っています」
まずは知ってもらうことが必要だった。ただの楽しいパーティーで終わるのではなく、自分たちが日本酒を広げる媒体となることが目的だ。そこに向けて、今井さんは自身がつくる『くどき上手』の名のとおり、気鋭の蔵元10人を口説きおとした。
「初対面でも、“旨い酒ですよね〜。実は前から気になってたんですよ!”と気軽に話しかけていましたね。あとはストレートに自分がやりたいことを伝えました。そして最後に“イケメンでいい造りをされている人だけに声をかけているんですよ”と(笑)」

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例えば『而今』の大西唯克さんなど、あまりこういった形で前には出ないタイプも加入しているのも珍しい。大西さんは、参加メンバーの顔ぶれ、そして明確なコンセプトに、最後の最後で口説き落とされたのだとか。
実のところ日本酒業界には保守的なところもあり、市場に向けて宣伝活動を積極的に行わない蔵元もいたりする。それでも、消費者の好みの移り変わりが激しく、情報社会となったいまだからこそ、蔵元も自らが発信し、銘柄を知ってもらうことで日本の酒文化を盛り上げたいというのが彼らの考えだ。「旨いものを旨いと伝えたい」そんなシンプルな想いは一貫している。船の上でイベントを行うのは、そのためのパフォーマンスだ。

「本当の成功は、“日本酒オーシャンズの酒ない?”と、幅広い飲食店で指名されること。そうすれば加盟している蔵元の名前をもっと多くの人に知ってもらえます。フランス人の若者に好きなワインの銘柄を2社言ってと聞いたらほとんどの人が答えられるだろうけど、同じことを日本の若者に言っても回答はないですよね。どうにかしたいです。日本酒は全国の津々浦々にあって、ひとつの趣味となれば日本各地の風土も知れて旅も楽しくなりますよ」
そして、日本酒の未来は明るいと感じさせるこんな目標も。
「10年後、20年後、僕たちに憧れる酒蔵の息子がいたらいいし、そうなるように頑張らないといけません。若手に憧れられる蔵元になりたいです。そういう気持ちもあるので、今後、日本酒オーシャンズの加盟蔵元は10以上に増やしたいとも思っています」

 

広い空と海に囲まれながら、極上の日本酒を呑み比べ

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日本酒オーシャンズのメインとなる活動は、東京・大阪での10銘柄が揃うクルージングパーティー。9月12日に行われたイベントでは、初回にも関わらず400人もの来場客が集まった。利酒を勉強中の女性、酒場で噂を聞きつけた男性、酒好きのアメリカ人やロシア人、常連から話を聞いた銀座のお姉さまなど、参加理由もさまざま。ただ共通するのは、酒を呑むのが好きだということ。

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16時に船が出港すると、利き酒師でフリーアナウンサーのあおい有紀さんの進行でイベントがスタート。10人の若き蔵元が紹介され、まずは『くどき上手』の発泡性清酒『おしゅん』で乾杯。上品な糸泡とほのかな果実香で来場客の喉を潤すと同時に、呑んべいたちの酒欲に火がつけられた。10人の蔵元たちはそれぞれの持ち場につき、自分が造る酒を客たちに注ぐ。

あおいさんの話では、「昔はずっと同じ銘柄で通す人が多かったようですが、最近の呑む方はいい意味で浮気症。色んな味を呑み比べてみたいという好奇心が強いですね」とのこと。イベントでも10種の銘柄をすべて呑む人も多く、明らかな個性の違いに驚いている様子。面白いのが、「造り手の雰囲気がお酒の味に出ている気がする」という声も聞かれたこと。きっと後日、店で日本酒を頼むときに、造り手の顔を思い出して注文する人もいるだろう。
酒に合う食事もふんだんに振る舞われ、海の向こうには落ちていく夕陽が見え、日本酒が進まない理由はない。船3Fのデッキも開放されていたので、そこで潮風を浴びながら日本酒をあおる来場客も多く見受けられた。

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日本酒界を盛り上げる、あの人もイベントに参加

そんななか、来場客のひとりとして日本酒を楽しんでいたのが、なんと中田英寿氏。中田氏といえば、全国の250もの蔵元を独自に周り日本酒に精通。いまでは日本酒アプリ『Sakenomy』も展開し、そのアプリは英語とイタリア語にも翻訳されている。ロンドン五輪やミラノ万博開催時には、現地で期間限定の日本酒バーをオープンさせるなど、いまや日本酒を世界に広げるプロデューサーとしても活躍中だ。これまで47都道府県を周っているなかで出会った蔵元たちの活動を知り見に来たと言う。

「いまは若い蔵元がいい酒を造っているし、本当に彼らを応援しています。彼らが頑張ることが、同じ層のお客さんを獲得することにも繋がるとも思っています。こういう場で顔が見えて、パワーを感じると、商品とともに共感を得られる。単なるモノじゃなくなります。いかに共感を増やせるかが大事なはずです」

同時に、日本酒ブームといっても、日本酒を知っている人はまだまだ少ないとも感じているそう。

「例えば蔵元がどれくらいあるか、銘柄がどれくらいあるか、まずそういったことが知られていません。日本酒を好きな層は増えているけど、ワインのように産地や銘柄が伝わっていません。そこのところを蔵元もやらなければいけないし、僕も頑張らなければいけない。最初に必要なのはそこだと思います」

それは日本酒オーシャンズを主宰した今井さんのメッセージとも通ずる。

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10種の銘酒が呑めて食事もつき、それもクルージングをしながらという贅沢で、参加費はひとり1万円。もう少し上げてもいいのでは?とも思うけれど、ここを越えないのが日本酒オーシャンズへのこだわり。ひとりでも多くの人に、気軽に日本酒を知ってもらいたいからだ。

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「日本酒が呑めるようになると、アルコールは面白いと思うようになるはず」とも話していたメンバーたち。ライバルでもある彼らが、刺激し合う場、発信する場である日本酒オーシャンズの第2回は大阪にて開催される(大好評のため東京開催も近日開催予定)。日本酒の新たな魅力を教えてくれる、次回の出港も見逃せない。

 

文/あおい有紀

 

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 あおい有紀

フリーアナウンサー・和酒コーディネーター、テレビ、ラジオなど各媒体で活躍する一方、日本の食や和酒の魅力発信を積極的に行い、大切さ、楽しみ方を伝えている。酒蔵ツアーや日本文化×日本酒のコラボイベント、様々な国籍の料理×日本酒のマリアージュイベントなどの企画・主催をはじめ、各地での講演、セミナー講師多数。日本酒造青年協議会「酒サムライ」叙任。観光庁「官民協働した魅力ある観光地の再建・強化事業」にて、目利き役。女性向け日本酒本「日本酒日和」(舵社)監修。 

【資格】きき酒師、焼酎きき酒師、WSET(Intermediate wine certificate)、一級フードアナリスト、日本箸教育講師など

 

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