青山 いち太:「食の王道」vol.28 広川道助

2016.05.26

若手のなかの注目店「青山 いち太」は、
伸びしろの大きい、大らかな味

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「ここ1、2年で一番注目している店はどこですか?」
それなりに店を訪れているので、そう聞かれることもまた、それなりにあります。

注目といっても、いろいろな観点があるので一概には言えませんが、日本料理の分野でいえば「青山 いち太」の名前は、その候補に必ず上がるでしょう。なによりも大将が研究熱心なこと、そして店の雰囲気がいいことが理由です。

大将の佐藤太一さんは、独立する直前まで新宿にある割烹「大木戸 矢部」で修業していました。「銀座 矢部」の大将、矢部久雄さんの店ですが、矢部さんは弟子の面倒見がよく、彼のもとで修業した店はどこも評判がいいことで知られます。料理の最後にすっきりとした十割蕎麦を出すのも、矢部系列の店の特徴です。

2014年秋に青山三丁目交差点からほど近い、一等地に開店しました。東京在住の人なら「スキーショップジロー」を曲がったあたりといえば分るでしょうか。私が訪れたのは一年ほどしてからのことですが、その時はすでに、

「いち太、頑張っているよ」

との声がずいぶん聞こえていました。

はじめて訪れたとき、「伸びしろが大きい料理だな」と思いました。コースは1万3千円だったでしょうか、その値段でこんないいものを、と驚くような質の良い食材を揃えていました。

火入れや、味付けにはばらつきがあったと記憶していますが、ほかの店では瑕疵といわれるようなところも彼の場合は、「大らかな手つき」という言葉で表現してしまうような将来性を感じたのです。

その後、一年でミシュランの一つ星を獲得しました。いい客がついて、刺激を得たのだと思います。さまざまな料理人と交流を持ち、勉強をしているという話も聞こえてきました。

ひさしぶりにうかがって驚いたのは、食材の質の良さはそのままで、料理が格段によくなりました。それも、素材をいじくりまわすような料理ではなく、食材の個性を見極め、的確に調理しているな、と感じたのです。

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