鮨さいとう:「食の王道」vol.31 広川道助

2016.06.16

 

「鮨さいとう」のカウンターで、
銀座時代からの彼のにぎりの変遷を思い出す

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「フランス料理」や「イタリア料理」に比べて「寿司」は個人の仕事です。下ごしらえは弟子がする場合もありますが、最後は、必ず主人の手が入ります。ですから、数ある店の支店であっても、店ごとに味わいに違いが生じるのは、当然のことです。

寿司好きなら、溜池のアークヒルズサウスタワーにある「鮨さいとう」を知らない人はいないでしょう。「予約の取れない寿司屋」の代表格で、いまや一見で入ることはほぼ不可能といわれています。その秘密は、にぎりの美しさ、味の良さはもちろんのこと、斉藤孝司さんのハートウォーミングなホスピタリティにあるでしょう。

あまりの人気に、別室で二番手、三番手が握るようになり、彼らの予約すら取りにくくなっています。SNSが普及してからの風潮で、まず「貸切」や「大人数予約」をして、そのあとに参加者を募るという、料理がイベント化していることも、その人気に拍車をかけているようです。

ただ、最近の常連には、この店が銀座にある「鮨かねさか」の支店だったことを知らない方もいらっしゃるかもしれません。

銀座「鮨かねさか」の立ち上げから、オーナーの金坂真次さんと一緒につけ場に立っていた斉藤さんが独立したのは、10年ほど前のこと。

当時は「鮨かねさか 赤坂店」と名乗り、アメリカ大使館のすぐそばで、政財界人の事務所が並ぶ自転車会館の一階にある、わずか6席の小さな店。トイレはもちろん共用、裏の厨房とカウンターの導線がないので、お勘定をお願いすると、裏からぐるっと回って若い職人がやってくるという作りでした。

開店当初は予約も容易で、ゆったりとつまみとにぎりを楽しめました。が、ランチのおまかせコースが人気を呼び、寿司好きが訪れるようになり、ミシュランで二つ星となって「鮨さいとう」と名前を変えたころには、もう数カ月先まで予約がいっぱいでした。

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