福島県二本松市 大七酒造の「楽天命」:「気になる日本酒」 vol.01 あおい有紀

2015.10.03

 

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無農薬・無肥料で蔵元が米から作る熟成日本酒

日本酒は、世界中の酒の中で他に類を見ないほど、複雑で精巧な造りをしていると言われています。なかでも、伝統的な日本酒の造り方である、生酛造りは手間暇がかかることもあり、現在日本国内での全日本酒生産量のうち、わずか1%ほど。その生酛造りの代表格である酒蔵が、福島県二本松市の大七酒造です。

大七酒造は宝暦二年(1752年)創業。260年以上の長い歴史があり、現在10代目当主の太田英晴社長が、蔵を支え、指揮をとっています。

大七酒造の日本酒は96%ほどが生酛造りで、時間をかけ、丁寧な造りをしています。精米にもこだわりを持ち、超扁平精米を開発。酒になった時に雑味になると言われている外側の部分を効率よく扁平に削り、酒造りに必要な、米の中心部分にあるでんぷん質を無駄なく残します。常に高品質な酒質を目指すだけでなく、地球環境への配慮、サステナビリティの向上にも取り組んでいます。

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海外の晩餐会でも評価される実力派

そんな大七の日本酒は、2010年12月からオランダ王室晩餐会でも度々ふるまわれ、近年世界的な知名度も上げている1本。オランダ王室の晩餐会では、「箕輪門」、「真桜」、梅酒が出されました。また洞爺湖サミットでもファーストレディの晩餐会での乾杯酒に選ばれています。ヨーロッパを中心に評価され輸出も伸びており、これからの飛躍にも目が話せません。

生酛造りによる究極の1本が、「楽天命」

また、大七酒造は10年の期間限定で契約していた田んぼで米作りもしてきました。五百万石、という酒造好適米を作ってきましたが、山田錦も福島で作れることが研究で分かり、契約最後となる今年は山田錦を育てています。

この無天田(無農薬、無肥料)で育てられた酒造好適米は、現代では数少ない木桶仕込みの生酛造りで酒となり、「楽天命」という銘柄で世に出されます。大七酒造のお酒は、基本熟成させてから出荷されますが、「楽天命」は少なくとも6年以上熟成されます。ステンレスタンクで仕込むのが一般的ですが、昔ながらの木桶仕込みを採用することで、独特の上品さがあり、立体的で凝縮感ある味わいに。ゆっくりじっくり時を経て熟成された「楽天命」を、人生と照らし合わせながらいただくのも、また一考。 

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そんなお酒を造りあげた太田社長は言います。
「お酒は時を経て成長し、熟成しないと到達できない高みというのがあります。丸くて高次元で調和していて、旨味も、奥深さも、それまで無かったものまで感じられるようになってきます。まさに時が経って完成に登りつめた、より品格が高くなったと実感できる味わいです」
とはいえ、ただ年数が経てば到達できるものではありません。
「フレッシュさから遠ざかるほどに、生気や張りが失せていくものもあります。時間はお酒をふるいにかける訳ですね。本物の潜在力、伸びしろをもったお酒を造りたいというのが、大七にとって、毎回の最大の望みです。手抜きをしないで一所懸命に造れば、あとはお酒自身が自分の力で成長し、数年後には造ったこちらが目を細めるような美味しさに至ってくれます」

今年秋には、木桶仕込み専用の蔵も完成し、仕込みの割合を増やしていく予定。
「木桶仕込みに力を入れるのは、これが最も伸びしろのある、ポテンシャルの高いお酒を生み出してくれると感じるからです。独特の凝縮感、濃醇さ、それでいて最初から粗くなく、なめらかさが感じられます。木桶のお酒は、通常の純米生酛の1~3年という貯蔵期間を遙かに超えて、7年、8年と成長を続けられる。7年熟成の美味しさは、幾ら頼まれても、7年間待って頂かないことには味わって頂けません。たっぷりと好きなだけ時間をかけたお酒こそが、最大の贅沢品だと私は感じています」と太田社長。

 

大七が酒造りにおいて大切にしている、1,味わい深さ、力強さと洗練の両立 2,時間によって成長する酒 3,人の手と叡智を結集した酒

これをもって、醸造酒の普遍的価値を世界に発信していきたい。決して派手ではありませんが、静かに、そして着実に、大七スタイルの日本酒は世界へと広がっています。

http://www.daishichi.com

 

 

取材・文/あおい有紀 

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 あおい有紀

フリーアナウンサー・和酒コーディネーター

テレビ、ラジオなど各媒体で活躍する一方、日本の食や和酒の魅力発信を積極的に行い、大切さ、楽しみ方を伝えている。フィールドワークを信条とし、全国の酒蔵に200回以上足を運ぶ。酒蔵ツアーや日本文化×日本酒のコラボイベント、様々な国籍の料理×日本酒のマリアージュイベントなどの企画・主催をはじめ、各地での講演、セミナー講師多数。ル・コルドン・ブルー日本酒講師。観光庁「平成25年度 官民協働した魅力ある観光地の再建・強化事業」にて、目利き役。女性向け日本酒本「日本酒日和」(舵社)監修。日本酒造青年協議会「酒サムライ」叙任。 

【資格】きき酒師、焼酎きき酒師、WSET(International Higher Certificate in Wines and Spirits)、一級フードアナリスト、日本箸教育講師など