とく山 :「食の王道」vol.32 広川道助

2016.06.23

 

「ふぐ」以外の季節が楽しい
西麻布「とく山」の上手な使い方

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以前、この連載で新橋の日本料理「鮎正」を取り上げたことがありました。名前の通り、鮎料理で有名な店で、初夏から秋までは常に満席ですが、天邪鬼な私は冬のあんこう鍋が好きで、冬になってから訪れることのほうが多いくらいです。

同じように西麻布「とく山」はふぐで有名な店です。ふぐ料理店はテーブル席や座敷が多く、大勢で鍋を囲むにはいいですが、ふたりで楽しみたいと思うときには使い勝手はあまりよくありません。しかしこちらはカウンターでふぐが食べられるため、少人数でも楽しめるのです。

場所も西麻布のビルの地下と隠れ家風で、お忍びのデートにはぴったり。日曜日も営業し、コースではなくアラカルトで楽しめますから、有名人に遭遇することもかなりの確率であります。

しかしこの店もまた、私はふぐがうまい冬ではなく、春から秋、この店が割烹料理を出すころによく訪れるのです。

「とく山」という名前から「分とく山」を連想される方もいらっしゃるかと思います。分とく山の主人でテレビなども活躍している野崎洋光さんは「とく山」の出身。分店という意味で、その名前が付いたと聞いています。

分とく山はそれこそ、コース仕立ての割烹料理店ですから、「とく山がふぐだけがうまい店ではない」と言う意味も少しはご理解いただけるかもしれません。

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基本はアラカルト。座ると差し出されるメニューには、50種類以上の料理が並びます。

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アンキモやホタルイカ沖漬け、蒸しあわびといった酒肴から、お造り、煮物、焼物、揚物、お食事とカテゴリーごとに季節の料理が書かれていますが、コースの順番に則って頼む必要はありません。

酒肴だけを数品取って酒を酌み交わすのもいいし、お造りまでを店に見繕ってもらい、そのあとは好きなものを銘々頼むという方法もあります。中には定食屋のように使っている常連もいます。

この店のもうひとつの特徴は、料理人ではなく、オーナーがきちんと方向性を決めていること。だから野崎さんがカウンターにいた時代もいまも、味にぶれがありません。グルメの世界では、オーナーシェフの料理に脚光が浴びる時代が長く続いていますが、料理人が替わっても一定の味をキープすることもまた、大変な努力が必要なことです。

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