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【東京 銀座】板前バル 銀座八丁目店:「食の王道」vol.36 広川道助

2016.07.21

確かな修業で身に着けた技術を生かし、
値段以上の満足を味わえる「板前バル」

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「バル」は本来、スペインの酒場の概念です。料理というより、タパスと呼ばれる酒の肴を中心に出す店のことです。

 たとえばマドリッドのマヨール広場を訪れると、小さな間口の店が軒を連ね、各々に「スペインオムレツがうまい」「いわしの酢漬けが名物」など特色があり、ワイン一杯程度で次々にハシゴする地元客が数多くいます。日本で言えば「横丁の飲み屋」のイメージかもしれません。

その概念を移植して、十年ほど前から、日本中に「スペインバル」が出来てきました。スペインのタパスは調理が簡単で、日本人の口に合うということもあったでしょう。

スペイン通に言わせると「パエジャを出すのは料理店で、バルは酒肴だけ」だそうですが、日本人の炭水化物好きのせいか、パエジャどころか、パスタまで出てくるところも珍しくありません。

そして数年前からは、「イタリアンバル」「中華バル」など、スペイン以外の国の「バル」を名乗る店も出来ています。

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これもまた、日本人の特徴である融通無碍なところなのかもしれませんが、さすがに「和食バル」が出たときはあきれました。日本には「居酒屋」「酒亭」「飲み屋」という言葉があるのだから、徒に流行を追う必要はないだろうと思ったのです。だから「銀座板前バル」と聞いて興味はわかず、訪れる店の視野にも入っていませんでした。

ところが、板前バル・グループの総料理長、高木雄一さんのフェイスブックを読むうちに興味が沸いてきたのです。

高木さんは老舗の料亭などで長年修業し、ホテルの料理長を経て、板前バルの料理全般を統括する立場にいるのですが、毎日料理人として、銀座3丁目にある板前バルに出ていました。

フェイスブックでは、厳しかった修業時代を振り返りながら、若手のために「料理人の心得」をつづっているのですが、これが率直で読ませるのです。過去を反省しながら、奢らず、いまの時代にあった仕事を模索していることを素直に綴られており、読んでいるうちに「こういう人の料理なら、一度行ってみようかな」と思い、過日出かけたのです。

入って右側にカウンター、左手にテーブル席が広がります。明け方まで営業している店ですから、内装はカジュアルで値段も手ごろです。

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 しかし、料理の充実振りには驚かされました。最初に出る「お通し」が魅力的だし、煮物、焼き物も手を抜かいていません。一品あたりの値段が千円以下のものがほとんどですから、高価な素材は使えませんが、高木さんが身に着けた調理技術で旬の流通豊富な野菜や魚をきちんとした料理に昇華させています。お酒もリーズナブルで、ふたりで行って、お腹いっぱい食べて飲んで1万円程度ではないでしょうか。

その高木さんが先日、銀座8丁目の店に移りました。3丁目店より心持ち広く、オープンな雰囲気です。高木さんはカウンターの奥に構えて、若い職人と一緒に一心不乱に料理を作っていました。

お通しの充実ぶりは3丁目店と一緒、料理も美味しそうなラインアップが揃い、営業時間が長いのも一緒。十分満足です。

カウンターで高木さんの仕事ぶりを眺めながら、酒肴をつまんでいると、つくづく「料理は人だな」と思います。

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