グレイスワイン キュヴェ三澤 明野甲州2014

2015.10.10


明野甲州

 

 

 

 

 

 

失敗しても諦めず再挑戦した垣根仕立て

かれこれ四半世紀も昔の話になりますが、卒業旅行でフランスのボルドー地方を訪ねた時のこと。葉も房もなく、ただ太い幹に細い枝が2本ばかり伸びたブドウの樹を眺めつつとぼとぼ歩いていると、同じように卒業旅行で来ていた日本人カップルと出くわし、ふたりからこう尋ねられました。「ブドウ畑はどこですか?」

目の前一面に見えているこれがそうですよ……と答えたのですが、男性のほうがこれは桑畑だといって、とり合ってくれません。それも無理はありません。日本でブドウ畑といえば、どのような品種であろうと、頭上から房がたれ下がる棚仕立てがふつうですから。

この棚仕立てを考案したのは膏薬の商標名で有名な永田徳本とされています。湿気の多い日本では、風通しのよい棚仕立てのほうが、ヨーロッパのワイン産地で一般的な垣根仕立てと比べ、病害のリスクが少ないとされています。それに腰をかがめなければ収穫できない垣根仕立てより、目の高さに房がなる棚仕立てのほうが作業的に楽というのも事実でしょう。ただし、ワイン用のブドウとして考えた場合、棚は垣根と比べて反収が大きく、凝縮したブドウにならないのが悩みです。

さて、そんな棚仕立てがデファクトスタンダードな日本において、甲州の垣根仕立てに挑戦するワイナリーが、山梨のグレイスワイン。日本に渡来して千年以上の歴史をもつ甲州は、ワイン醸造に適したヴィニフェラ種の血を引きながら、生食向けの棚仕立てが身に染みついてしまい、垣根仕立てではうまくいかないという考えられてきました。事実、グレイスワインでも、4代目社長の三澤茂計さんが一度試したものの、実がつかずに失敗。半ば諦めかけていたのです。ところが……。

ミドルパレットの厚みが違うスーパー甲州

2002年に明野に開いた自園で、甲州の垣根仕立てに再チャレンジ。5年後の07年に初めて実がつきました。さらに、この垣根甲州の育成に心血を注ぐ頼もしい助っ人が、ボルドーから帰ってきました。茂計さんの長女の彩奈さんです。甲州の里に生まれ、甲州とともに育った彩奈さんは、ボルドーにいてもつい飲みたくなるワインは甲州だったとか……。

そして2013年には棚仕立ての甲州とはまったく異なる、凝縮した実がなり、このの年から「甲州垣根仕立て」は「明野甲州」にリニューアル。2014年は涼しいヴィンテージのため、凝縮感の強かった13年と比べるといくぶんデリケートなスタイル。柑橘系のアロマが爽やかに感じられ、ピュアな酸味が基調のワインに仕上がっています。ただしそれでも、ふつうの棚仕立ての甲州とは、ミドルパレットの厚みが格段に違いますね。

これは甲州の可能性を頑なに信じる、父娘2代の夢が詰まったワイン。甲州の最高峰に間違いありません。

5,400円/中央葡萄酒▲0553-44-1230