新潟県糸魚川市 渡辺酒造店の「Nechi」:「気になる日本酒」 vol.02 あおい有紀

2015.10.14

 

日本酒にドメーヌスタイルを取り入れNo.1に輝いた吟醸酒

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各年の米の特徴を重視し、過度に手を加えない

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「今の日本酒に足りないものは、リアリティ。お酒のクオリティが高いのは前提として、ストーリーやオリジナリティがあるかどうか、そこをきちんとプレゼンできれば、日本酒の価値はもっと上がると思うんです」

そう語るのは、新潟県の最南端、糸魚川市にある明治元年創業の渡辺酒造店・渡辺吉樹社長(54歳)。駒ケ岳、雨飾山、城山に囲まれ、フォッサマグナが目視できる場所に根知谷はあり、蔵の前に広がる景色、水、米……。まさに、その年の根知谷が育んだ自然の恵みをそのまま日本酒として表現しているのが、根知男山のブランド、「Nechi」シリーズです。

根知谷の美しい風景を描いた瓶のラベルデザインからも読み取れますが、日本酒のドメーヌスタイルを確立するため、テロワール、セパージュ、ビンテージを重視。通常、日本酒は米の出来に関わらず毎年同じ味わいにもっていくのが主流ですが、Nechiはその年の米の特徴が立つように、造りにおいて過度に味わいを調整することはしません。

100%自社栽培に向け、社長自らが苗を植える

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「原料から地元で生産することに日本酒の本質的な価値がある」と考える渡辺社長は、蔵元からすれば喉から手が出るほど欲しい、酒造好適米の最高峰と言われる兵庫県東条地区の山田錦の権利を返上し、平成9年から地元根知谷での契約栽培に取り組みました。さらに平成15年からは自社栽培を始め、五百万石、越淡麗という新潟県の奨励品種を、社長自ら苗から育て、ほぼ毎日のように田んぼに出ては日照時間や雨量など細かくデータを記録。一般的に不作、と言われた年にも特等米を出すなど、根知谷の自然と対峙し、農家としてもプロフェッショナルな姿勢を貫く姿勢には、ただただ頭が下がります。

毎年少しずつ自社栽培の生産量を増やし、現在全生産量の80%の米が自社栽培ですが、あと2年で100%にする予定だそう。日本酒の場合、基本的に米作りは農家、酒造りは蔵元と分業になっていて、蔵元が一貫して行うのはとても珍しいこと。しかしここでは、蔵のすぐ目の前に、自社の田んぼは広がっています。「根知川を挟んで右岸は日当たりが良く農地も広いので、条件もよく、まさに黄金地帯。左岸は南側に山があり日照時間が右岸に比べても短いので、収量や品質にも差が出てくるんですね。さらに、下根知から上根知まで30メートルのゆるやかな標高差がありますが、その違いだけでも微妙な気温差があり、米の成長にも影響が出るんですよ。結果、稲刈りのタイミングも田んぼによって3日ずれるんです」と渡辺社長。土壌、気温、日照時間、品種、説明を伺っていると、なんだかワイナリーを訪れているのかと錯覚してしまいそうなほど。

IWCにて“チャンピオン・サケ”を受賞

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「大事なのは、米。いい玄米があれば、おのずといい酒が造れる」が信条。そのためには、自然界の小さな声まで漏らさず聞き、稲が気持よく育つように手入れをすることが必要。また、土地の特性を把握し、台風や豪雨、猛暑など、天候の変化にも対応していかなくてはなりません。一筋縄ではいかないことも想定内ではありますが、根知を心から愛し、情熱を注ぎ込む渡辺社長。

その惜しみない努力が実り、2010年には、世界最大級のワイン品評会、IWC(インターナショナルワインチャレンジ)にて、日本酒部門の純米吟醸酒・純米大吟醸酒の部に出品された「Nechi2008」が、見事最優秀賞チャンピオン・サケに選ばれました。

2008年は、気候の変化、経過が完璧だったんです。五百万石の一等米ですが、味わいはグラマーながらプロポーションがよい感じ、に仕上がったかな。時を経てさらに状態がよくなってきています」と渡辺社長は話します。

その言葉どおり、クリスタルのような輝きを放つ透明感、シルクのような滑らかな舌触り、上品な米の旨味と酸味のバランスが素晴らしい至極の1本となった「Nechi2008」。米の輪郭がはっきりと浮き上がり、最後にはうっとり、心地よい余韻が広がります。

世界を舞台にずっと先の将来を見据え、根知、糸魚川のこれからも視野に、「まだまだやりたいことがあるし、あと20年は現役で頑張りたい」と意気込むなか、長男の渡辺晋太郎さんが今年の春、東京農業大学を卒業し、早速米作りから携わっています。親子で毎晩のように晩酌をしながら話をするとのこと。渡辺社長の想いが時を経てどう受け継がれていくのか、これからもその進化に目が離せません。

 

取材・文/あおい有紀

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 あおい有紀

フリーアナウンサー・和酒コーディネーター

テレビ、ラジオなど各媒体で活躍する一方、日本の食や和酒の魅力発信を積極的に行い、大切さ、楽しみ方を伝えている。フィールドワークを信条とし、全国の酒蔵に200回以上足を運ぶ。酒蔵ツアーや日本文化×日本酒のコラボイベント、様々な国籍の料理×日本酒のマリアージュイベントなどの企画・主催をはじめ、各地での講演、セミナー講師多数。ル・コルドン・ブルー日本酒講師。観光庁「平成25年度 官民協働した魅力ある観光地の再建・強化事業」にて、目利き役。女性向け日本酒本「日本酒日和」(舵社)監修。日本酒造青年協議会「酒サムライ」叙任。 

【資格】きき酒師、焼酎きき酒師、WSET(International Higher Certificate in Wines and Spirits)、一級フードアナリスト、日本箸教育講師など

 

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