【群馬県 富岡市】仁べえ:「食の王道」vol.44 広川道助

2016.09.15

「伝説の蕎麦打ち」石井仁さんが故郷に凱旋
富岡で始めた「そば食堂」の居心地の良さ

rd850_1群馬県富岡市と言えば世界遺産になった富岡製糸場で有名ですが、そこから数分のところにこの春開店した「そば食堂 仁べえ」。蕎麦好きにとっては世界遺産どころではない、長らく待ち望んでいた新店なのです。

蕎麦好きは食いしん坊のなかでもマニアックな方が多いジャンルで、どこの蕎麦がいいかは人によって違いますが「伝説の蕎麦打ち」のひとりとして石井仁さんを挙げることに反対する蕎麦喰いはいないでしょう。

石井さんの打つ十割蕎麦は、「水腰蕎麦」と呼ばれ、加水率が通常の蕎麦より高く、極細なのに、腰が強くて、喉越しがいいのです。しかも、石井さんがすごいのは、それをすべて独学で学んだことにあります。惚れ込んだ蕎麦屋に通いつめ、それを自分の技として昇華したのです。

その石井さんが故郷の富岡市に本人いわく「終の棲家」として、店を出しました。しかも、これまでのような「料理店」ではなく、今度の店は「食堂」だというから驚きです。

私が彼の蕎麦を初めて知ったのは1990年代前半に神田に蕎麦「いし井」を開店したときのこと。当時からすごい蕎麦屋が現れたと有名でしたが、石井さんは突如修善寺に移り、「朴念仁」を開業。そこも数年で閉店し、東京で「古拙」を立ち上げましたが、それも数年で後進に譲ります。

次に開店した「仁行」もやはり数年で閉じ、「いったい石井さんは、どこにいるんだろうか」とファンがやきもきしたところの開店のニュースでした。

私もいち早く食べたいと思っていましたが、なかなか訪れる機会がなく、うかがえたのは夏の暑い盛り。

富岡製糸場の入り口から歩いて間もないところに店はありました。グーグルマップ片手に狭い路地を歩いて探したのですが、最初は「まさかここじゃないだろう」と前を素通りしてしまうほど。まさに普通の食堂なのです。

なかもごくごく普通の定食屋の雰囲気。家族連れが思い思いのものを頼んでおり、ここに「レジェンド」と謳われた蕎麦職人がいるとは思えませんでした。

rd850_2 rd850_3 一品料理から、群馬県下仁田名物の刺身こんにゃく(このあたりでは「山ふぐ」と呼びます)の酢味噌、同じく甘楽の豆腐を使った冷奴、おからを頼みました。どれも「地元の名産だから」という粋を越えた食材で、特に冷奴は絶品。何気なさそうに見えながら、実はこだわった料理であることがわかります。

待望の蕎麦がやってきました。基本の「もりそば」と、店名を冠した「仁べえそば」を頼みました。

 

《次ページへ》