グルメ

【東京 銀座】銀座矢部:「食の王道」vol.49 広川道助

2016.10.20

秋刀魚の旨さが凝縮した料理を
「銀座矢部」のカウンターで味わう

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前回、「紀尾井町山ぐち」をご紹介する際、「和食における再構築」という切り口で考えてみました。

しかし考えてみると、それをずっと以前からやっていた料理人がいたことに気づきました。「銀座矢部」の大将、矢部久雄さんです。

矢部さんは新宿御苑前に「矢部」を開き、独立。8年ほど前に銀座に移転し、いまは新宿店と二軒を経営していますが、大将本人は銀座店にずっといます。

彼は弟子の面倒見がいいことで有名で、たとえば新宿店で店長をやっていた佐藤さんは青山に「いち太」を2015年9月に開店。2016年のミシュランですぐに一つ星を獲得していますし、西麻布「き久知」、荒木町「津之守坂よねやま」(閉店)、西麻布「豪龍久保」など、彼の下で修業し旅立って、ミシュランの星を獲得した料理人は大勢います。

ところが不思議なことに矢部さんの店は星がないんですね。ミシュランがすべてではないことは本人もご承知ですが、私は彼の料理を長年食べてきて、もっと評価されてもいいのになあ、と正直に思っています。

その矢部さんの真価が発揮される「再構築料理」が、秋刀魚料理にあるのです。

秋のまるまると太ったさんまを七輪で焼いて食べると「秋が来たなあ」としみじみ思うもの。でも、さんまは鮎のように頭からがぶりと噛んで楽しむむわけにはいきません。

「秋刀魚は内臓がうまい」とはよく言われますが、脂の乗った時期の秋刀魚のわたには鱗が入っていますし、苦玉(胆嚢)が割れるとやはり苦みが全体にまわってしまいますから、私は額面通り受け取ることはできないとずっと思っていました。

また、細い骨もたくさんあって、いくら身がうまくても、骨を一緒に口に入れてしまうと、味わいは半減してしまいます。

そんな問題を、矢部さんの「秋刀魚の肝挟み焼き」に出会って解決したのです。

1キロに20~21匹の丸々と太った秋刀魚の入ったトロ箱が入荷する時期になると、矢部さんの秋刀魚を楽しみにしていた客が予約を入れ始めます。

矢部さんはカウンター前の分厚いまな板で、頭を落とした秋刀魚を背開きにし、まず骨を丁寧に取り出します。内臓から苦玉を外し、わたを包丁で削いでうろこを吐き出させます。ここで内臓の皮が破れてしまうと焼くときに旨味が落ちてしまいますから、慎重にしないといけません。

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きれいに掃除した身に、丁寧に掃除したわたを戻し、もう一度元の状態に整形。串を打って、備長炭で焼くのです。

 

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