グルメ

「食の王道」vol.55

【東京 銀座】しのはら: グルメキュレーター 広川道助

2016.12.01

2016年の日本料理の収穫は「しのはら」
滋賀から移り、品格が備わった店へ

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そろそろ2016年も終わりを迎え、この一年間の収穫を話し合う季節となりました。私の周囲の食いしん坊たちは、それぞれ好き嫌いが明確なので、美味しかった店はけっこうバラバラになります。

私にとって今年の前半はあまりコレという店がなく、いつもの店をリピートしていましたが、後半になってようやく、面白い店が出てきました。

以前ここでご紹介した「津之守坂  小柴」がそのひとつで、もうひとつは銀座に出来た「銀座しのはら」です。

この店はすでに早いもの好きの食いしん坊の連中がSNSでさんざん発信しているので、連載で取り上げるのはどうかなとは思ったのですが、いまの時代の日本料理を考えるにあたって、恰好の素材かもしれないと思いなおしました。

rd850_2大将の篠原武将さんは京都「たん熊」や滋賀「招福楼」で修業し、生家のある滋賀県三雲に「割烹しのはら」を開きました。私は一度だけ訪れたことがありますが、駅前にはなにもなく、店もぽつんと離れたところにあります。

店も、カウンターはありますが、個室が主力。近所の冠婚葬祭や寄合のための料理屋という位置づけで、天ぷら会席や鍋会席もやっており、子供から大人までが楽しめる地元の美味しい和食店でした。

ところが、そんな環境で彼が地道に力を注いだコース料理が評判となり、全国から食いしん坊が訪れるようになった。数年の時を経て、食べログの評価も4.5を超え、全国でも有数の日本料理店となったのです。

そこで「晴れて銀座に凱旋」なのかと思っていたのですが、篠原さんにうかがうと、そういうわけでもないらしいのです。

もちろん、東京進出は考えないではなかったそうですが、夏前にちょうどいい物件が出て、家族にも事前に相談せずに一週間で決断。滋賀の店は畳み、若い衆も一緒に東京へ出てきたとのことです。

今度の店はカウンター10席のみですから、冠婚葬祭や寄合というニーズは一切排除、最初から篠原さんの料理を味わうためだけに作られています。

「しのはらが銀座へ移る!」というニュースは瞬く間に食いしん坊のあいだに伝わったので、10月の開店前からすでに予約が殺到。オープンしてからは連日、自慢もかねて「しのはら」の料理がSNSのタイムラインを埋め尽くしました。すでに来春まで予約はいっぱいという話も聞きます。

私も開店後、しばらくして訪れました。篠原さんは忙しそうにカウンターを行き来していましたが、生来の人懐っこさが顔に出ていて、食材のひとつひとつを説明するのが実に楽しそうです。たしかにこの人は、カウンター割烹に向いています。

 

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