【東京 西麻布】豪龍久保: グルメキュレーター 広川道助

2016.12.22

派手なパフォーマンスとは無縁ながら
しみじみと旨い、「豪龍久保」の献立

rd1700_1

最近の飲食店は、料理の美味さはもちろんですが、客を巻き込んでいく料理人の資質が、店の評判を左右している、と感じているのは私だけでしょうか。

特にカウンター中心の日本料理店はそうで、華やかな食材を調理する前に見せて写真を撮りやすくしたり、ブログやSNSのネタにできるよう、料理の解説もうまい料理人が話題になっています。

たとえば、新橋「京味」で修業した黒木純さんが経営する湯島の日本料理「くろぎ」や、滋賀県から東京に移転してきた日本料理「銀座 しのはら」、すでに一年以上予約が取れない鮨「東麻布 天本」などがいい例です。そうした店は個室よりもカウンターが特等席で、店主のパフォーマンスを見ながら料理を味わうため、劇場型レストランとよくいわれます。

そういう意味からすれば、西麻布の交差点から少し離れたところにある日本料理「豪龍久保」は、昨今の流行からは外れた店かもしれません。

店主の久保豪さんは寡黙なタイプで、自分からはあまりしゃべりません。せいぜい料理の説明くらいです。親しくなってから聞いたところによると、料理人の修業は大学を出てからと遅く、決して器用なほうではなかったそうです。

一番長かった修業先はこの欄でも先日ご紹介した銀座「矢部」で、大将の矢部さんの名物「骨なし秋刀魚の塩焼き」は、久保さんの解釈を加えた「豪龍久保」独自の料理になっています。

私は当初、店の名前があまりにも派手なので、ずいぶんバブリーなパトロンがついているのかと勝手に思っていたのですが、「豪龍」は自分の名前と息子さんの名前を組み合わせたものだそうです。

実際、店に訪れてみると中のしつらえも決して派手ではなく、すべて自分の身の丈で始めました、という彼の言葉が嘘ではないことがわかります。

rd1700_2

しかし実直に料理に取り組んでいる彼の姿はきちんと料理の中身に反映されており、それはわかる人がみればわかるようで、2015、2016年と二年連続でミシュラン2つ星に輝いています。フランス人にとっては、劇場型であろうとなかろうと、日本語のパフォーマンスでは、意味がわからないからかもしれませんが。

料理も開店当初はコース1万5000円でしたが、評判があがるにつれ、食材の質もあがり、いまでは2万5000円と3万5000円の2コース。しかも、客が頼むのはほとんど後者だと言いますから、評価の高さもわかろうというものです。

 

《次ページへ》