「気になる日本酒」vol.47

鳳凰美田 無濾過本生純米吟醸酒 芳(かんばし):日本酒キュレーター あおい有紀

2016.12.27

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手仕事にこだわり丁寧に醸す、全量吟醸造りの酒蔵

近年、吟醸酒を中心に造る酒蔵は数多くありますが、なかでも注目され、発売されるやいなやあっという間に入手困難となる人気銘柄のひとつ、「鳳凰美田」。栃木県小山市にて、1872年(明治5年)創業の小林酒造、第5代の小林正樹専務(47)が酒蔵に戻ってきてから誕生したブランドになります。

rd1700_2現在、20代の若手を中心に26名の蔵人が酒造りに関わっていますが、女性の蔵人も多く造りの現場は非常に活気があり、小林専務が製造責任者として現場を仕切っています。今でこそ、押しも押されぬ人気銘柄としてその地位を確立していますが、そうなるまでには相当な苦労がありました。

今回の取材では、小林専務だけでなく、普段ほとんど表に出て来られない、奥様で醸造部部長の小林麻由美さん(48)にもじっくりお話を伺うことができましたよ。

rd1700_20161227A小林専務は東京農業大学で醤油を専攻し、当時は正直、あまり蔵を継ぐつもりもありませんでした。というのも、父親である小林甚一郎社長から、自分の代で酒造りは辞めるつもりだと聞かされていたからです。

その頃生産量は、普通酒を中心に170石ほど。蔵の屋根は雨漏りがひどくてブルーシートを張っていたり、麹室は通常温かいはずなのに、どこからか隙間風が入ってくる。設備投資をする余裕もなく、温度調節機能のついたサーマルタンクは一本もない、というような状況でした。

そこで小林専務は、担当教授に就職活動の相談に行き、蔵の経営状態などを話したところ、「そうか、それは残念だね!もう無理だから他の所に就職したほうがいいよ」と明るく一蹴され、その時涙が出るほど悔しい想いをしたといいます。それまでは、将来のことをぼんやりと考える程度でしたが、反骨精神から小林専務は蔵に戻り、一から立て直す決心をしました。

rd1700_4卒業後、東京 滝野川にある醸造試験場で造りについて学んでいましたが、そこで奥様と運命的な出会いが!
岩手県出身の小林麻由美さんは、当時大学時代応用生物学を専攻したあと、岩手県庁に就職して工業技術センター配属となり、岩手県を中心に東北の酒蔵の酒類指導や品質評価、酵母の開発などをしていました。

合間に、3ヶ月ほど醸造試験場で先生として中小企業の指導をするため東京に出てきていましたが、そこでは小林専務は生徒として麻由美さんから指導を受ける立場。そこから紆余曲折あり、5年後に結婚となりましたが、周囲からは「あの麻由美さんが、いつやめてもおかしくない状況の栃木の酒蔵に嫁ぐだなんて!」ととても驚かれたといいます。

麻由美さんは、「東北の杜氏さん達ともいい関係でしたし、あちこち飛び回っていた人間が、結婚後は蔵にこもって閉鎖的に。なんだか社会からつまはじきにされたようで不安になったり、指導役とはいえ南部杜氏の皆さんに教わってきた恩を返せぬまま、7年で勤め先を辞めたので、結婚後専務と一緒に造りに携わろう、という気持ちにすんなりとは切り替えられませんでした。
そんな時、お世話になった東北の酒蔵の皆さんから色々励ましやアドバイスをもらい、少しずつ前向きな気持ちになりました。岩手にいた頃は、酒質の良し悪しをストレートに彼らに伝えていたので、『小林酒造では、言いたいことがある時は旦那を介して杜氏に伝えたほうがいいよ』とのアドバイスも頂きましたね(笑)と」

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