グルメ

新ばし 笹田:「食の王道」vol.01 広川道助

2015.11.05

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「京味」一門のなかでも、「京料理のエスプリ」を継承。
しみじみ美味い、誠実な料理が味わえる東京でも稀有な店

東京の日本料理好きに聞くと必ず名前が出てくる店に新橋「京味」があります。主人の西健一郎さんは80近いお年ですが、いまでも板場に立ち、腕を奮います。その料理は華麗で、食材も西さんの目にかなったものだけ。「西さんは丹波以外の松茸は認めず、ほかで取れても、ただのきのこというんです」といわれるほどですが、残念ながら一見客は入れず、その予約も数か月待ち。

そこで最近は京味で修業したお弟子さんの店も人気になっていますが、その多くは松葉蟹や白子、松茸など、京味ゆずりの高級食材を使った料理が並ぶ店です。勢い値段も高くなり、料理の中身より、そこに行ったことを自慢しているレビューがネットに多く見受けられます。

しかし西さんの料理の真髄は、豪華な食材だけではなく、彼が父親から受け継いだ「京料理のエスプリ」のほうにあるのではないでしょうか。数ある弟子たちの中でも、そちらを前面に出している店はあまり多くありません。そのなかで、京料理のエスプリを理解し、さらに独自の味に昇華しているのが、新橋にある「新ばし笹田」です。笹田さんの料理はしばしば「華がない」と評されます。ある意味、その通りだと思いますが、それこそが褒め言葉だと思うのです。

日本料理に「華」を求めるようになったのは最近のこと。旬の料理をいくつも味わって最後にしみじみ美味しかったと感じるのが、昔からの日本料理だったはずです。蒸しアワビにキャビアを乗せて、ウニの餡をかけたような直球勝負の料理が評価され始めたのは、ネット社会で写真映えのする料理が受けるようになってからです。

それを一番感じるのが、笹田でいただく「みぶ菜とお揚げの煮びたし」です。どれも決して高級な食材ではありませんが、笹田さんが引いた出汁が素晴らしく、見事な日本料理になっています。季節ごとに訪れれば「筍とわかめの若竹煮」や「聖護院大根と鴨肉の炊き合わせ」といった何気ない料理の数々に、笹田さんの腕前を感じることでしょう。

rd800_1菜とお揚げ

そしてお椀。ひと口目は物足りないかもしれませんが、椀種とともにいただくと、最後には出汁と種が重なり合ったひとつの完成された味になって終わる。滋味深いとはこのことです。

rd800_2お椀

〆はごはん。しかも白いご飯と決まっています。日本料理の〆はご馳走の思い出をお腹と頭にしっかり刻むための、スポーツでいえばクールダウンのようなものです。土鍋で炊かれたご飯を味わいながら、料理を終えるのはなによりも贅沢な体験です。しかし最近は、〆にすら味の強い、インパクトのある料理が出てきて、これまでの印象がふっ飛んでしまうことも珍しくありません。

rd800_3ごはん

高級食材を腕前でねじ伏せて、見事な味に仕立てた料理も美味しいと思います。決して否定しているわけではありません。でも、素材のうまさを引き立て、料理に品があり、誠実な味わいの店は、東京にこれだけ料理店があっても、なかなか見つかるものではありません。

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「新ばし 笹田」
住所:東京都港区西新橋1-23-7 プレシャスコート虎ノ門1階
電話:03-3507-5501
営業:18:00〜21:00L.O. 
料金:コース1万2000円〜(別途サービス料10%あり)
定休日:日曜・祝日

文 広川道助(ひろかわ どうすけ)

《プロフィール》
広川道助
学者の家系に育つ。西欧で一時期を過ごし、早い時期から食の世界を志す。20代はフレンチに凝ったが、その後、日本料理の深遠さに目覚め、近年は和食全般を系統だてて食することが一番の楽しみ。

 

【広川道助の〈食の王道〉】一覧記事はこちら
http://www.premium-j.jp/dousuke-hirokawa/

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