シャトー・メルシャン 甲州きいろ香 キュヴェ・ウエノ 2013:ワインキュレーター 柳 忠之

2017.01.12

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ふたたび、エポックメイキングな甲州きいろ香

シャトー・メルシャンの「甲州きいろ香」……。

はい、このワインはすでにご紹介しましたね。長年、フレーバーに乏しいと言われ続けた甲州のイメージを覆す、まさにエポックメイキングなワインでした。

シャトー・メルシャンとボルドー大学の共同研究によって、ソーヴィニヨン・ブランにも見られるグレープフルーツなど柑橘系の香り成分が、じつは甲州にも存在することが発覚。ただ、その香りを引き出すにはかなりの苦労があったようです。

ボルドーで研究にあたったのは日本人の富永敬俊博士。残念ながら、初ヴィンテージの2004年が発売されてから3年後に亡くなられました。まだ53歳の若さだったそうです。

じつは「きいろ香」というネーミングは富永博士がかわいがっていた小鳥の名前。拾った時はまだ雛でその時は黄色をしており、博士はこの鳥に「きいろちゃん」と名付けました。ところが拾ってからわずか1ヶ月で羽が入れ替わり、青い鳥に。きいろちゃんの正体はメザンジュ・ブルー。メーテルリンクの幸せを運ぶ青い鳥のモデルとなった鳥でした。

それで「甲州きいろ香」のラベルには、青いきいろちゃんが描かれています。

厚みと骨格が違う、シングル・ヴィンヤードもの

先日、我が家から車で30分のお酒屋さんに行ったところ、いつものきいろ香とはちょっと違うボトルを発見。「甲州きいろ香キュヴェ・ウエノ」とあります。

キュヴェ・ウエノの「ウエノ」とは、元シャトー・メルシャン工場長の上野昇さんのこと。じつはきいろ香の香り成分(3MH(3-メルカプト・ヘキサノール)が2003年に初めて発見されたのが、上野さんが所有するブドウ畑「上野園」。このキュヴェ・ウエノは上野園の甲州のみから造られた、シングルヴィンヤード(単一畑)のきいろ香なのです。

上野園が位置するのは甲府盆地北東部、山梨市を流れる笛吹川の右岸。河岸段丘の上にあり、土壌は砂礫質で水はけのよさが特徴だそうです。

さて、キュヴェ・ウエノ、通常のきいろ香とはどう違うのでしょう? ヴィンテージは2013年、よい年ですね。じつはすでに2014年もリリースされていますが、入手したのはたまたま2013年でした。キュヴェ・ウエノは良年のみリリースされます。

3年の熟成でどうかな……と思いましたが、きいろ香らしい、グレープフルーツやユズなど爽やかな柑橘系の香りはそのまま保たれています。一方、口中での印象は、いつものきいろ香とは違います。通常のきいろ香がさらさらとした繊細なスタイルなのに対し、キュヴェ・ウエノは明らかに厚みと骨格が備わっています。暑い年のはずですが酸味のレベルも高く、バランスのとれた味わい。ポテンシャルの高さがうかがえます。

一見繊細に見えてじつは力強い味わいのフグチリをポン酢でいただくなら、このワイン、ほんとにぴったりだと思いますね。

ところでキュヴェ・ウエノのラベルには、きいろちゃんのほかにもう1羽、茶色い鳥が飛んでいます。とくに言及はありませんが、富永博士がきいろちゃんが亡くなった後に拾ってきた「トラ」ではないでしょうか?

オープン価格/シャトー・メルシャン
http://www.chateaumercian.com/

 

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