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「気になる日本酒」vol.49

賀茂金秀 特別純米 原酒 13度:日本酒キュレーター あおい有紀

2017.01.31

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自らの手で苦難の道を切り拓き、再起を果たした酒蔵

“フレッシュ、ジューシー、エレガント”をイメージし、2002年から造られている「賀茂金秀」。第五代蔵元の金光秀起社長兼杜氏(41)が自らの手で体制を一から改革し、試行錯誤しながら“賀茂金秀らしさ”を確立。今では地元だけでなく全国でも人気銘柄の一つとなっています。先日蔵にも足を運び、酒造りへの想いを伺うことができました。

23金光酒造は、広島県東広島市にて1880年(明治13年)創業、「桜吹雪」をメインブランドとして造っていました。金光秀起氏は東京農業大学醸造学科を1998年に卒業後、すぐ蔵へと戻ります。

蔵では普通酒を中心に造っていましたが、金光氏が蔵に戻る前の1994年、人員削減のために高額な液化仕込みの機械を導入していました。液化仕込みとは、米を蒸す代わりに高熱によって生米を酵素で液化し、これに麹と酵母を加えてアルコール発酵を促す方法です。

時間や労力が節約でき、普通酒を大量に造る際に利用されることが多いですが、品質の低下は否めず、それまで900石あった生産量も600石まで落ち込みました。

4金光氏は蔵に戻ったあと、杜氏のもと酒造りの手伝いや成分分析などをしていましたが、売り上げが下がる中、「液化仕込み」ではない本来の「蒸す」お酒を造り、金光酒造にでしかできないお酒を売っていかないと将来はないと考え、嫌がる杜氏を説き伏せます。

「液化仕込みの機械も投資したのに、今更また手間も人員も必要な酒造りに戻すのか、と家族からも大きな反対を受けましたし、当時私は、酒造りの知識は素人同然でしたが、このままでは先がないと思ったんです」

5金光氏の信念は揺らぐことなく、蒸米仕込みの吟醸造りを始めました。出来上がったお酒は、屋号である「正月屋」として純米吟醸での販売を開始しますが、既存の販路ではディスカウントは当たり前。お酒の管理も常温で、蛍光灯の紫外線により品質が劣化し返品される。

これに嫌気がさし、販路も一から新たに求め、地酒専門店の門をたたきました。金光氏が想いを込めて造る酒として、新たな銘柄にしたほうがいいとのアドバイスから、「賀茂金秀」が誕生。賀茂は土地名、金秀は金光秀起の名前から一文字ずつ取り、命名しました。

6液化仕込み時の杜氏は、とにかく面倒なことや手のかかることはやりたくなかったようで、「わしゃ吟醸造りは知らん」と言われる始末。賀茂金秀が生まれた2002年に手を引いてもらい、翌年から金光氏が杜氏となりました。しかし、酒造りはほぼ独学だったという、金光氏。

「教えてくれる人がいなかったので、多くの失敗を繰り返しながら自分で正解を見つけていきました。大変な思いをしたぶん、今では壁にぶつかっても対応できる体力が身についているような気がします」

後には引けない状況であったものの、体当たりで実践し、苦労しながら少しずつ進化して今の賀茂金秀に辿り着いたと思うと、私達飲む側もじっくり味わっていただきたくなりますね。

 

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