ENTER.Sake:「気になる日本酒」 vol.06 あおい有紀

2015.11.13

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次世代の酒造りを牽引する蔵元杜氏集団、NEXT5

2010年に結成された『NEXT5』。秋田県内には30ほどの酒蔵がありますが、当時酒造りに直接関わる若手後継者5蔵が集まり、月に1度定例利き酒会をしながら、自身の酒質向上を目指し、経営や流通の話に至るまで意見交換をしていました。

そんななか、技術交流をはかるためにも“共同で酒を造ろう”、という話になり、共同醸造プロジェクトがスタート。毎年仕込み蔵を交代しながら、麹、酒母、醪などメンバー全員で酒造りに関わり、NEXT5のブランドとして、一本の酒を仕込んでいきます。

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NEXT5のメンバー5名。左から、山本合名会社・山本友文さん、栗林酒造店・栗林直章さん、秋田醸造・小林忠彦さん、新政酒造・佐藤祐輔さん、福禄寿酒造・渡邉康衛さん。

 

 

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造りのない時期には、スプリングコレクション、オータムコレクションとNEXT5で消費者向けのイベントも開催。初めは、地元秋田の飲食店の意識を変えたい、という目的でフレンチの店やアートギャラリーを借りて開催していましたが、地元メディアのみならず全国メディアを通じて、NEXT5の取り組みが発信され、いつのまにか県外の日本酒業界にまで影響が大きく波及するように。

佐藤祐輔さんは、「我々は、日本酒に対しての限定的なイメージを破壊したいという思いで活動しています。蔵元、酒販店、お客さま、ほか日本酒業界に携わる方が、日本酒はこうであらねばならない、日本酒らしい、らしくない…などという無意識に感じている条件があります。こうした輪郭を疑い、限界を突破したい」と考えています。

メンバーは、これまでブルゴーニュ、シャンパーニュ、ナパのワイナリーを巡り、それぞれの哲学も感じ取ってきました。今後海外で、高品質で手頃な価格の日本酒が造られ広まっていくようになった時、我々日本で造っている日本酒はどうなっていくのでしょう?

「歴史の浅いナパでは品質重視、ブルゴーニュでは、街の歴史や土壌について多くを語ってくるなかで、やはり自分たちがやることは、秋田の土地で、秋田の水、米を使い日本の伝統を表現し伝えていく、というところに行き着くと思うんです」と渡邊康衛さん。美味しい日本酒を造ることは大前提。その上で酒造りの本質に立ち返り、長年に渡って培ってきた歴史を大切にしながら、凝り固まった概念を覆す自由な発想をどんどん具現化していく。NEXT5 の活動から各業界が目が離せないのも頷けるところです。

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ミニマルテクノの帝王、リッチー・ホウティン氏とのコラボレーション、ENTER.Sake

NEXT5として6年目の共同醸造を迎えた今年、ホスト蔵が一巡したこともあり、新たな企画がスタート。もっと活気のある異業種、特に音楽、絵画などの文化的ジャンルとのコラボレーションにより、日本酒に本来の芸術性を蘇らせることができると考えました。

今回は、世界的に有名なDJでライブでは必ず日本酒を提供し、若いファンにその魅力を広めているというリッチー・ホウティン氏とのコラボが実現。実際に、リッチー氏とのディスカッションから、木桶とオーク樽を併用するというアイディアが生まれたり、新しいパッケージデザインが誕生しました。

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今回のホスト蔵は新政酒造。酒米は秋田県の美山錦を使い、きょうかい6号酵母、きもと造りの吉野杉の木桶仕込み、そしてアメリカンオークの樫樽貯蔵の純米大吟醸と、これまでに類を見ない造り方。佐藤祐輔さんが造りへの想いを語ってくれました。

「まずは『生酛』が失敗できないので、たいへん注意を払いました。生酛がうまくいったら木桶でのもろみの仕込みですが、これも衛生にはたいへん気を使います。無事に搾れて完成した酒を飲み、その出来には満足しましたが、そのうえでさらに、誰も行わなかった手法、そして芸術的な高みを目指し、アメリカンオークに入れることを決断しました。木桶の杉のテイストと、オークのテイストが共存できるかという点も賭けでした。

内部をよく焼いたアメリカンオークをセレクトしましたが、杉桶の清冽なニュアンスと、アメリカンオークの柔らかい渋みやココナツのような風味が、ほんの少々存在し、微妙に絡むのが美しいと推測しました。結果的になんとかうまくいきましたが、大きな賭けであったのは間違いありません。結果としては、満足しています」

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  温度経過表(クリックで拡大します)

また、注目なのがパッケージの中に入っている醪などの温度経過表。酒造りの専門家にしか分からないものをあえて入れた意図は?

「特にきもと造りの製法は深淵にして複雑怪奇なもの。その経過簿は、分かる方には分かるし、分からなくてもデザイン的に奇妙で良いと思いました。ジグザグとした特徴的な温度経過が、どことなくテクノのような気がして」

そんな遊び心もまた、ENTER.Sakeならではの魅力のひとつです。

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Photo by Johannes Kraemer

 

クラブイベント、ENTER.Sake in AKITA開催!

そして10月23日、秋田のJAM HOUSEにて、NEXT5とリッチー・ホウティン氏との夢のクラブイベントが開催されました。なんとも贅沢なこの企画、ウエルカムドリンクはENTER.Sakeの蔵出し生酒。乾杯後は、DJ Hito、リッチー氏の音楽に身を委ねながらENTER.Sakeはじめ、5蔵の至極の日本酒を4時間にわたり楽しめるとあり、秋田のみならず県外からも500名が集まり、盛り上がりをみせました。

本番前、リッチー氏に直接話を聞くことが出来ました。

「私の音楽作りにおいて、人と機械、どちらかが欠けていてもいいものはできない。酒を利くとき、また音楽を聞くとき、人と機械のバランスがどうなっているか、一番に感じています。NEXT5は、5つの蔵元がそれぞれ持っている技術を使い、新たな造りにトライしている。私が音楽で表現したいのは、過去、現在、そして未来。NEXT5もそれを表現しようとしているし、自分の音楽はこれだと思っている所がとても似ており、共鳴を受けている。近年セラミックタンクが当たり前のなか、すべて作り方を分かったうえであえて木桶仕込み、きもと造りと伝統的なところから、更にオーク樽で貯蔵と、未来的なお酒を生み出そうとしている姿勢が素晴らしいと感じています」

一方の佐藤祐輔さんも、「伝統に回帰しながら、ただその伝統を盲信するわけではなく、その伝統の価値を再確認するための努力をも惜しみません。一方で、文化を越境するような手法をも取り入れた酒造りを行っています。その意味で、形態的には非常にシンプルに見えながらも、深層部分では多様な文化が息づいているリッチー氏の音楽にシンパシーを感じるのです」

互いに共鳴しあい、完成したENTER.Sake、11月からアメリカでのイベントや飲食店で提供されていますが、国際的なマーケットの中でどう評価されるのかが楽しみです。

そして、次回のNEXT5は、世界的な現代美術家である、村上隆さんとのコラボレーション。ホスト蔵である秋田醸造の小林忠彦さんが現代美術の愛好家でもあり、企画が実現しました。日本酒とアートの融合がどんな新たな価値を生み出すのでしょう!

伝統と革新を持ちあわせたNEXT5、我々をどう驚かせ、楽しませてくれるのか、今後さらに期待は高まります。

 

取材・文/あおい有紀

【あおい有紀の〈気になる日本酒〉】一覧記事はこちら
http://www.premium-j.jp/yuki-aoi/

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 あおい有紀

フリーアナウンサー・和酒コーディネーター

テレビ、ラジオなど各媒体で活躍する一方、日本の食や和酒の魅力発信を積極的に行い、大切さ、楽しみ方を伝えている。フィールドワークを信条とし、全国の酒蔵に200回以上足を運ぶ。酒蔵ツアーや日本文化×日本酒のコラボイベント、様々な国籍の料理×日本酒のマリアージュイベントなどの企画・主催をはじめ、各地での講演、セミナー講師多数。ル・コルドン・ブルー日本酒講師。観光庁「平成25年度 官民協働した魅力ある観光地の再建・強化事業」にて、目利き役。女性向け日本酒本「日本酒日和」(舵社)監修。日本酒造青年協議会「酒サムライ」叙任。 

【資格】きき酒師、焼酎きき酒師、WSET(International Higher Certificate in Wines and Spirits)、一級フードアナリスト、日本箸教育講師など

 

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