グルメ

「食の王道」vol.70

【東京 六本木】鮨由う:グルメキュレーター 広川道助

2017.03.16

産地自慢を超えた小気味いい
六本木の若手の寿司屋

1 copy-min寿司屋で30代の大将が現れはじめたのは、ここ15年ほどでしょうか。記憶にある限りだと銀座「青木」が最初でしたが、彼の場合はお父さんが急逝されたという特殊事情もありました。そのあとだと、いまはロンドンに移りましたが、上野毛で始めた「あら輝」あたりかもしれません。

いまでは30代の独立は当たり前で、20代も出てき始め、40代だと遅いといわれているくらいです。毎月どこかで開店し、それもかなりの高級寿司。東京の食いしん坊はさぞやお金持ちばかりなんでしょうか。

30代の独立と同時に顕著になってきたのが、産地至上主義。ひとつひとつのネタの産地、状態を解説しながら出すのが当たり前のようになっています。

客のほうも当たり前のように「今日の赤貝どこ? もう閖上は出ているかな」なんて訳知り顔で聞くものだから、輸入物なんて出せないような気配が漂ってしまうわけです。

この店は30代の主人が半年ほど前に出した店で、スタイリッシュな内装です。若手を多数輩出している銀座「かねさか」グループで修業した同年代のふたりで店を出したと聞いていました。

コースひととおりで15000円というのは六本木にしてはリーズナブルなほうですが、酒を飲めば2万円に届きそうなラインです。

過去の事例から言って、その手の店ほど背伸びして、食材自慢をするところが多いのですが、ここが気に入ったのは、隣の客とマグロのやりとりをしていたときに、

「今日はアイルランドのマグロなんですよ」

と当たり前のように話したことからでした。

2 copy-minネタのなかでもマグロは、寿司屋にも、寿司好きにとっても、知識を開陳するには最高の舞台なので、仲卸がどこだ、魚体の大きさはどこだ、などとカウンターを挟んで丁丁発止が行われていることもしばしば。私はだいたい、隅のほうで黙って酒を傾けていますが、ときどき苦笑しかねないドヤ顔の応酬もあったりします。

マグロとはそうした産地自慢の際たるネタなのに、アイルランドのマグロであることをさらりと明かしたことで、私は「この青年はなかなかやるな」と思いました。この日に限って、いいマグロがなかったのかもしれませんし、予算上それが日常なのかもしれません。でも、なんらエクスキューズせずに話す口調が爽やかだったのです。

 

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