【東京 麻布十番】すぎ乃:グルメキュレーター 広川道助 

2017.03.23

関西風なのにカツオ出汁のおでん
微妙な距離感が心地いい「すぎ乃」

1 copy-minこの連載ではじめておでんを取り上げたのは本郷にあった「呑喜」でした【記事はこちら】。明治20年に創業。130年近い歴史を持つ、真っ黒な出汁のいわゆる関東煮のおでんでしたが、残念なことに2015年末に主人が急逝され、店を閉じてしまいました。

そのあとは胸に穴の開いたような気分で、しばらく「おでん難民」と化していました。老舗のおでん屋はいくらでもありますが、どれも空気感が微妙に合わなかったからです。そんな中、昨年にようやく居心地のいい店を見つけました。

麻布十番にある「おでん酒庵 すぎ乃」。もともと奈良県天理市でおでんを中心とした居酒屋を成功させ、奈良県内に3軒の支店を構えるようになった。

そのすぎ乃が麻布十番に進出したのが昨年5月。はじめて訪れたのは6月で、もう少し汗ばむくらいの陽気でしたから、おでんは少々にして、もうひとつの名物「豚とレタスのしゃぶしゃぶ」をお願いしました。

2 copy-min出汁はおでんと共通のようで、かつおの味がほのかに香る透明感のあるもの。呑喜の関東煮とは正反対のスープです。それが豚肉の甘みとレタスのしゃきしゃき感にうまくマッチして、これなら冬のおでんはさぞや楽しいだろうなと思ったのです。

店の構えは白を基調にした開放的なデザイン。店先の杉玉がいい風情をかもし、一階はカウンター主体でまんなかにおでん鍋が鎮座しており、オープンキッチンスタイル。二階は個室として使用できます。メニューも刺身からメンチカツ、丼までバラエティに富んでいて、最近の居酒屋のツボをしっかりと押さえています。

そう書くと、逆に「最近の流行りと変わらないじゃないか」と突っ込まれてしまいそうですが、やはりこの店を買うのは、澄み切った出汁のよさなのです。

「奈良おでん」というネーミングで有名になっていますが、店の方に、「奈良おでんってほかのおでんとどう違うんですか?」と聞いたところ「うちのほうから奈良おでんと言っているわけではなく、関西風でいいんだと思います」との答え。

ただ、関西はどちらかというと昆布出汁が中心ですから、すぎ乃のおでんのようにかつおの香りが勝ったおでんはやはり、関西風とはちょっと違う気もします。逆に、だからこそ東京でも受ける要素が生じたわけで、半年ほどのあいだに店の人気はうなぎのぼり。予約が必須の店となってしまいました。

 

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