誠鏡 純米吟醸 S1968 KIYOMA:日本酒キュレーター あおい有紀

2017.03.14

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独自の酵母や醸造法を開発し、さらに美味しい酒をと代々チャレンジし続ける酒蔵

平安の昔より、京都・下鴨神社の荘園として栄え、「安芸の小京都」と親しまれていた広島県竹原市。大正時代には26あった日本酒の蔵も、現在残るは3蔵となっています。そのうちの1蔵、1871年(明治4年)に創業した中尾醸造では、「誠鏡」「幻」という銘柄で酒造りを営んできました。「杯に注いだ酒の表情を鏡にたとえ、蔵人の誠の心を味に反映させ映しだして欲しい」という願いが込められています。

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6代当主の中尾強志社長(54)は、東京農業大学醸造学科を卒業後、醸造研究所で一年半研修を受けたのち、23歳で蔵に戻り、夏は営業、冬は酒造りを学びました。34歳の時に社長となり現在に至りますが、今でも自ら酒造りに関わり、更なる酒質向上の為に新しいことにもチャレンジし続けています。蒸米の水分調整から麹造りでの夜間の温度調整、醪の温度経過のチェック、搾りのタイミングまでしっかり把握。

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「私が蔵に戻ってから杜氏が3回変わったので、酒質の方向性や安定性を保つことに大変苦労しました。私の代では経営者が積極的に酒造りに関わるようにして、杜氏や蔵人が変わっても、酒質が変わらない体制をつくることに努力しています」と中尾社長。

現在、杜氏歴7年の荒谷昭夫氏(45)とともに全7名の蔵人と、1900石ほどの日本酒を造っています。1月に蔵に訪れましたが、天井が高く広い空間で整理整頓され、とても清潔感あり、洗米機や麹室など最新の設備を取り入れながらも、人の手を必要とするところはしっかり手づくりで丁寧な造りをしている、という印象を受けました。

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使用する米は、山田錦以外は広島県産の八反錦、雄町、新千本を使用。吟醸酒、純米酒などの特定名称酒で95%を占めており、中硬水の賀茂川 伏流水を仕込み水として使っています。酵母もお酒の種類によって使い分けていますが、中尾醸造を最も特徴付けているのが「リンゴ酵母」と「高温糖化酒母法」。

4代目当主の中尾清麿氏は、帝国大学教授の坂口謹一郎氏と共に全国を訪ね歩き、2000以上もの酵母を収集して発酵試験を繰り返しました。その結果、昭和15年にリンゴの果皮から採取された酵母が、フルーツのような芳香と爽やかな酸味、そしてアルコール発酵が強いことを突き止め、リンゴ酵母と命名。今も蔵で大切に保管し培養され、「幻」の大吟醸に使用されています。

また、高温度(55~58℃)で酒母を仕込むことで雑菌を淘汰し、純粋で強い酵母を育てることができる高温糖化酒母法も、中尾清麿氏が完成させました。

 

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