グルメ

水道橋 日本料理 縁(ゆくり):「食の王道」vol.03 広川道助

2015.11.19

東京のど真ん中に出来たコジーなホテルにある、個性的な、ホテルらしからぬレストラン

rd850_前菜
かつてはご馳走と言えばホテルのレストランで食べるものでしたが、この十数年で地位はすっかり逆転。美味しいものを食べるなら、有名シェフが経営する個人店のほうを選び、ホテルは休日や大人数のときなど料理の内容以外で選ばれることが多くなりました。ホテルのレストランの料理は標準的ではあっても、あっと驚かされる味に出会うことは少なかったからです。しかしこの数年、ホテルもさまざまな努力をし、画一的でない、魅力的なレストランを生み出す努力をしてきました。なかでも最近、注目しているのが水道橋「庭のホテル」の日本料理「縁(ゆくり)」です。

ホテルの名前自体、聞いたことがない方も多いと思います。2009年に出来た新しいホテルで、かつては「東京グリーンホテル水道橋」というビジネスホテルでした。創業者の孫娘が、和の雰囲気を持った居心地のいいホテルにしようと思って建て替えを決意。大型ホテルにはない、フレンドリーなサービスが心地いい、コジーなホテルが出来上がりました。

ホテルの日本料理は客層もさまざまですから、万人受けする、わかりやすいメニューになりがちで、それ自体は致し方ないところもあります。しかし日本料理「縁」では、ホテルのコンセプト同様、派手さはないけれど、料理人の個性や主張を感じられる料理が供されるのです。

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▲子持ち鮎の塩麹ソース

10月のコースでそれを一番感じたのは、焼き物で出された「子持ち鮎の塩麹ソース焼き」でした。パリッと焼きあげた鮎ならともかく、塩麹に漬けこんで焼いた鮎は一見して地味な姿。ホテルで出すなら切身魚の西京漬のほうが美味しいだろう、と思ったほどでした。ところが、食べると印象は一変します。

鮎の卵の弾力と、塩麹でしっとりとした身の柔らかさがちょうどいい状態で口中で合わさり、まったく新しい食感に変わるのです。ここまで計算された料理を、少人数を相手にする割烹ならともかく、ホテルの飲食店で味わえるなんて、思ってもみませんでした。

前菜の柿白酢掛け、秋刀魚粕漬け、甲州玉子、柿に見立てた白玉のスッポンのお椀、海老芋の饅頭なども、けっして派手な食材を使っているわけではないですが、下ごしらえに丁寧に手を掛け、季節を感じる料理に仕立てられています。

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▲柿白玉とすっぽん椀 

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▲海老芋饅頭

さらに、このレストランを気持ちいいものにしているものに中庭の存在があります。まず石畳を歩きながら1階にあるエントランスに向かうのですが、右手には雑木林と小川が流れる庭が拡がり、気持ちを落ち着かせてくれます。窓際のテーブル席に座ると、今度は石庭の向こうに樹木が覗き、自宅にいるように寛げるのです。

料理の〆は、鴨ときのこがたっぷりと入った温かい蕎麦。鴨の脂ときのこの旨味が溶け込んで、出汁の甘さが引き立ちます。これまでのホテルレストランなら、炊き込みご飯か、時間管理の楽な冷たい蕎麦がセオリーのはず。実質的な旨さを求める「縁」の丁寧な仕事は、最後まで変わりませんでした。ホテル同様、コジーなレストランです。

 

「日本料理 縁(ゆくり)」
住所:東京都千代田区三崎町1-1-16 庭のホテル 東京
電話:03-3293-0028
営業:
朝食 7:00〜10:00(L.O.)※土日祝日のみ営業 
ランチ 11:30〜14:00(L.O.)
ディナー 17:30〜21:00(L.O.)
料金:ランチ3000円〜、ディナー8000円〜
定休日:年中無休(ディナータイムのみ日曜日休み・連休の場合は最終日休み)

 

文 広川道助(ひろかわ どうすけ)

 

《プロフィール》
広川道助
学者の家系に育つ。西欧で一時期を過ごし、早い時期から食の世界を志す。20代はフレンチに凝ったが、その後、日本料理の深遠さに目覚め、近年は和食全般を系統だてて食することが一番の楽しみ。

 

【広川道助の〈食の王道〉】一覧記事はこちら
http://www.premium-j.jp/dousuke-hirokawa/

 

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