「気になる日本酒」vol.54

一ノ蔵 Madena:日本酒キュレーター あおい有紀

2017.04.13

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これまでも日本酒業界に風穴を開けてきた酒蔵の新たな取り組み

すず音、無鑑査本醸造など、幅広い層に支持されている一ノ蔵。馴染みのある方も多いのではないでしょうか。きっと何百年もの歴史ある酒蔵に違いない、という印象の方もおられるかと思いますが、実は創業1973年(昭和48年)と、44年の歴史なんです。

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当時、浅見商店、勝来酒造、桜井酒造店、松本酒造店の4蔵が、時代と共に小さな酒蔵のままでは経営が厳しくなってくるのではないかと危機感を抱き、企業合同で「株式会社一ノ蔵」が新たに誕生。

4蔵の代表が役員となり、宮城県大崎市に創業しました。各酒蔵が持ち回りで社長を務めていますが、2015年より、鈴木整氏(47)が第7代社長として、総務、営業も担当しながら海外にも足を運ぶなど、バイタリティ溢れる活躍をされています。

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日本酒イベントなどでお会いする機会も多く、このような事を言っては失礼かもしれませんが、とても愛嬌があり気さくな方で、鈴木社長のファンも少なくありません。

創業以来、人の想いを大切にした手づくりにこだわる酒造りをしており、現在の生産量は約18000石で、うち特定名称酒は86・2%、社員数は190名(蔵人は50名)にまで成長しました。

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使用する酒米は98%が宮城県産で、「蔵の華」「ササニシキ」「ひとめぼれ」を中心に、残り2%は兵庫県産の「山田錦」特等米を使用。地元のみならず国内外幅広く浸透、愛される酒蔵の一つとなりました。

しかし、これまで常に順風満帆な航海が続いた訳ではありませんでした。2011年に発生した東日本大震災では震度6強の揺れにあい、製品、設備、建物に大きな被害を受けます。倉庫・冷蔵倉庫の中は崩れた酒瓶が散乱し、地面は酒の池になりました。

洗米済みの白米数トンは廃棄、酒母タンクは倒れ漏出。幸い、貯蔵タンクは寸でのところで横転は無く、もろみは気温が低かった為、守られたといいますが、自社が大変な状況にも関わらず、避難している地元の方々に少しでも助けになればとボランティア活動を即開始。

「汲み出し済みの給水タンクに残っていた井戸水を、酒を運ぶローリーに積んで町内での給水を行いました。また、瓶は割れなかったけれど、お酒を被り売り物にならないものを別の瓶に詰め直し、『料理酒』のラベルを貼って石巻の避難所へ届け、炊き出しに使っていただきました。中身は純米酒や吟醸ですからちょっと高級な料理酒でした(笑)」と鈴木社長。

現在も、「一ノ蔵 特別純米生原酒3.11未来へつなぐバトン」を2012年2月から毎年発売し、売り上げの全額を、被災した子供たちへの支援基金「ハタチ基金」に寄附しています。毎年、総額700万円近い額となり、震災の年に生まれた子供達が二十歳になるまでの20年間、継続的に被災地支援として続けていくとのこと。被災した酒蔵に向けられた暖かい支援の手、それを次の世代へ渡していこうというプロジェクトの一環ですが、売上全額の寄付はそうそう出来ることではありません。まさに地域振興に根ざした酒造りを体現する一例、その志に頭が下がります。

 

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