【東京 芝大門】くろぎ:グルメキュレーター 広川道助

2017.04.21

「和のアイアンシェフ」の名店が
芝大門にて新規開店

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数年前、わずか半年で終わってしまったテレビ番組「アイアンシェフ」を覚えていらっしゃいますか。

日本語に直すと「料理の鉄人」、そう1990年代に一世を風靡した料理対決番組をリメイクしたものでした。フジテレビもかなり番宣をかけたものの、二番煎じの色が濃く、ブレイクする前に終わってしまったのですが、その番組で「和のアイアンシェフ」を務めたのが、当時湯島にあった「くろぎ」のオーナーシェフ、黒木純さんでした。

日本を代表する割烹「京味」で修業した黒木さんは、一時期下町で紹介制の割烹を開き、その後、湯島で別名で開業。しばらくして自身の名前に変えて心機一転したあたりのことでした。

私は下町時代に評判を聞いていたものの、訪れる機会を逸し、はじめて訪れたのは湯島に移ってから。古い日本家屋を改装した店で、湯島の飲み屋街の一角からの決して恵まれたスタートではありませんでした。

しかし、見るからにイケメンの風貌に加え、「京味」でのたしかな腕前がテレビで知られたことで、番組の不振とは関係なく黒木さんはブレイク、「くろぎ」は瞬く間に予約が取れなくなりました。余勢をかって近所に和菓子店を開き、宮崎県にあった料理人の父親の店もリニューアルするほどになりました。

その黒木さんが湯島を離れ、この3月に芝大門に移ったのです。自社ビルを建て、一階は堂々たる門構えで、二階がカウンター10席、三階が個室で、四階はセントラルキッチンといった設えです。二階、三階にはそれぞれ大きな厨房が付設されており、ひとつひとつが独立した料理店のような趣です。

以前はカウンター、テーブル席、個室を含めて30席以上だったものをわずか16席にしたそうで、以前の半分以下。これまででも予約が取れなかったわけですから、さらにドライブがかかるのは必須でしょう。

私は根がミーハーなものですから、開店して間もなく、新生くろぎを訪れてみました。

店は外から見ると黒を基調にしたシックな外観のビルで、周囲に溶け込むように建っていました。

カウンターはL字型で、真ん中に黒木さんが屹立し、湯島時代からのベテランスタッフふたりが脇を固めます。

私は数年前から訪れている程度の、常連とも言えない存在ですが、当時から黒木さんは訪れるたびに余計な要素が削ぎ落とされ、日本料理の王道を目指していることがわかりました。そして、この傾向は大門に移ってからも変わっていません。

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湯島のころのものを基本にした料理ですが、さまざま工夫が加わっています。たとえば湯島時代には最初に出る季節の変わり焼き豆腐が名物でしたが、大門ではそれを熱々の陶板の上に乗せ、ふうふう言いながら食べるようになりました。

まだ花山椒の前の時期だったのが残念でしたが、ホタルイカ、筍、うすい豆、鯛、桜海老など、季節を愛でながらの美味しい料理が続々と目の前に出され、2時間半ほどを十分満足しました。

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移転して一か月も経っていないながら、スタッフのチームワークは抜群で、カウンターや個室を飛び回る黒木さんをベテランの職人がうまくカバーしています。

あと半年もたてば、さらに一回り大きくなった黒木さんが見られるに違いありません。ただし、そのころの席に座れるかどうかははなはだ不安ではありますが。

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「くろぎ」
住所:東京都港区芝公園1-7-10
電話:03-6452-9039
営業:12:00〜14:30、17:00〜23:00 日月祝日休み

《プロフィール》
広川道助
学者の家系に育つ。西欧で一時期を過ごし、早い時期から食の世界を志す。20代はフレンチに凝ったが、その後、日本料理の深遠さに目覚め、ここ数年は和食全般を系統だてて食することにこだわる。伝統芸能や茶道も齧るが、これまたあまりに深いので、いまだ入口あたりをちょろちょろ。昨年、若いころに通いながら、最近ご無沙汰だった料理店の主人が相次いで亡くなったのが後悔してもしきれなかったので、今年は円熟の料理人を訪ね歩き、しっかり頭に刻んでおこうと考えている。

【広川道助の〈食の王道〉】一覧記事はこちら
http://www.premium-j.jp/dousuke-hirokawa/

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