「気になる日本酒」vol.55

福小町純米吟醸 美郷錦火入れ55:日本酒キュレーター あおい有紀

2017.05.16

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400年以上続く歴史ある酒蔵が、新たに注目を集める酒米で酒造りに挑戦

秋田県に400年以上の歴史ある酒蔵があります。大阪夏の陣が起きた1615年、豊臣家の重臣であった木村重成の一族が秋田県湯沢市に逃げ延び、木村酒造を創業。雪深い名水百選の地で、湯沢温泉でも有名な場所で脈々と地元に根ざした酒造りをしてきました。22年前、木村家14代目の親戚が当時東北新社の社長だったことから、現在はグループ入りして東北新社の傘下となっています。

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代々受け継がれてきた手造りにこだわりながら、最新のテクノロジーを掛けあわせる造りで進化を続け、もう一口、もう一杯、もう一本と飲みたくなる優しい味わいを目指す木村酒造。現在は、福小町、角右衛門の2銘柄を中心に、酒米は、秋田酒こまち、美郷錦、美山錦、吟の精、亀の尾、山田錦、備前雄町、五百万石と幅広く使用しています。うち秋田県産米は約70%で、1996年より特定名称酒のみの造りを始めました。

2011年に入社した製造責任者である佐藤時習製造部長(51歳)を中心に、10名の蔵人で約800石を生産します。2012年には、ロンドンで開催されるIWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)の日本酒部門で、福小町大吟醸がトップオブ・ザトップの座であるチャンピオン・サケに輝き、世界にもその名を知らしめることとなりました。

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その木村酒造が、今期初めての酒米で酒造りにチャレンジしたとのことで大変興味深く、お話を伺うことに。美郷錦、実は知る人ぞ知る酒米なんです。1987年に秋田県農業試験場で山田錦と美山錦を交配し研究を重ね、現在秋田県でのみ栽培されていますが、美郷錦を作っている生産者はまだ少ないため、美郷錦を使った銘柄も希少です。酒米の王様と言われる山田錦の血と、全国生産量第2位の美山錦の血を受け継いでいることもあり、粗たんぱく質が少なく、吟醸酒向けの酒米です。

お酒になったあと、時間経過とともに味わいが更に深く厚みを増していく、素晴らしいポテンシャルを秘めた米で、秋田県外の蔵元や日本酒ファンの皆さんからは、「ポスト山田錦になりうる酒米ではないか」と注目を集めつつあります。山田錦は収穫時期が遅く、秋田県の気候では栽培が難しい為、早生(わせ)で山田錦に匹敵する高品質な酒米品種をと美郷錦が開発されましたが、栽培は簡単ではないとのこと。美山錦より収穫量が少なく、倒伏による品質低下や粗たんぱく質の増加を防ぐために、肥料はやりすぎてもいけません。

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今回ご紹介する、「福小町純米吟醸 美郷錦火入れ55」は、一等米の美郷錦を100%使っていますが、大潟村で長年美郷錦を栽培している生産者、鈴木秀則さんの美郷錦を使用されたとのことで、鈴木さんご本人にもお話を伺うことができました。

「美郷錦は、秋田酒こまちに比べると栽培が難しく、酒米としては粒がさほど大きくありません。背丈は他の酒米に比べると高くはないのですが、茎が細く、倒れやすい上に、芽が出やすい特性があります。作る上で高温障害への対策もしっかりしているので、割れない米だと蔵元からは評価いただいていますね。自分の作った米から出来た酒が好きですし、その為に頑張れる気もします(笑)実際、福小町の純米吟醸を頂きまして、味としてはおとなしい印象でしたが、飲み飽きしない芯のしっかりとした酒だと感じました。大潟村の農協の店ではリピートもあるようで、売れ行きは上々ですよ」と。

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石川亮逸営業部長(52)は、「美郷錦は、秋田産山田錦、もしくは毛色の変わった山田錦というイメージで捉えています。今期の造りで初めて使いましたが、山田錦はこれまでも相当量扱っていますので、造りに関してのノウハウはバッチリですし、美郷錦も山田錦の造りに準じて扱っていますので、溶けやすい米を扱うのが得意なこともあり、比較的楽に感じています。将来的に、秋田生まれの未来を託せる米になって欲しいですね」と、期待を滲ませます。

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新しく開発されたAKITA雪国酵母を使用し、55%まで磨いた美郷錦で醸した福小町、私も実際に頂いてみました。まずは、メロンや柑橘系などのフルーティーな香りが穏やかに感じられ、軟水仕込みの柔らかい口当たりでするりと入ってきます。1回火入れながらジューシーさもあり、途中苦味や渋みもやってきたと思うと後半で酸味がぐっと押し寄せ、そこからまたボリュームが膨らみ長い余韻が楽しめます。今でも十分美味しいのですが、もう少し熟成させると、より味わいが落ち着いて、旨味が広がるのでは、という印象を持ちました。4月18日に出荷されましたが、原料米によってお酒の味わいに特徴が出ますし、どのような味わいか皆様にもぜひ飲んでみていただきたいですね。

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石川氏は、「これからも飲まれた方が次も指名して頂ける、正直な酒造りを続けること。そして安定的な高酒質の製品を切らすことなく供給出来る設備投資をして、将来的には現状の倍の出荷量を目指していきたいと思います」と力強く語ってくださいました。福小町、角右衛門ともに、バランスよく綺麗な味わいで心地よく杯が進み、個人的にも自信を持っておすすめできる銘柄の一つ。2年目以降も美郷錦により力を入れていくとのことですし、これからもチャレンジ精神で常に新たな可能性を探りながら、進化を続けていくことでしょう。今回改めてお話を伺い、今後の展開が益々楽しみになりました。

取材・文/あおい有紀
ボトル写真/sono(bean)

 

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 あおい有紀

フリーアナウンサー・和酒コーディネーター

テレビ、ラジオなど各媒体で活躍する一方、日本の食や和酒の魅力発信を積極的に行い、大切さ、楽しみ方を伝えている。フィールドワークを信条とし、全国の酒蔵に200回以上足を運ぶ。酒蔵ツアーや日本文化×日本酒のコラボイベント、様々な国籍の料理×日本酒のマリアージュイベントなどの企画・主催をはじめ、各地での講演、セミナー講師多数。ル・コルドン・ブルー日本酒講座講師。観光庁「平成25年度 官民協働した魅力ある観光地の再建・強化事業」にて、目利き役。女性向け日本酒本「日本酒日和」(舵社)監修。日本酒造青年協議会「酒サムライ」叙任。 

【資格】きき酒師、焼酎きき酒師、WSET(International Higher Certificate in Wines and Spirits)、一級フードアナリスト、日本箸教育講師など

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