【東京 曙橋】鳥勝:グルメキュレーター 広川道助

2017.05.18

料理屋をやるために養鶏場まで作った
曙橋「鳥勝」のこだわりに敬服

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以前、割烹料理長から焼鳥屋のオヤジに替わった料理人に理由を尋ねたことがありました。そのときの彼の答えは、

「日本料理では、安い値段でいい天然ものを仕入れることは実質不可能だけれど、焼鳥なら、すべて養殖だけど、だからこそいい鶏肉を安く仕入れることが出来るんですよ」

だったことを覚えています。

魚といえば天然ものばかりをありがたがるグルメ界ですが、実は彼らが好きな鶏肉はもとより豚も牛も全部養殖じゃないか、という彼特有のアイロニーですが、もうひとつ、鶏肉は育て方を工夫すればまだまだ美味しい肉がある、と彼はいいたかったのです。

曙橋と四谷三丁目の中間にある「鳥勝」という店を私は、ある友人から聞いて知りました。まだ、この店が池袋にあったころの話です。

天然記念物の薩摩地鶏雄とロードアイランドレッドを掛け合わせた「さつま地鶏」を使いたいがために鹿児島に専用の養鶏場まで作り、広々とした土地で150日以上の飼育期間をかけて育てたものしか使わない鳥料理屋なのだと彼は教えてくれました。

しかし、こんな風に聞くと、旨いんだろうけど、なんか面倒な店のように思い、当時はうかがうまでには至りませんでした。

ところが池袋から移転し、地の利がよくなったのを機会に、思い切って訪問したのです。

不思議なことに、迎えてくれたのはうるさ型の職人ではなく、30代の笑顔のきれいな青年でした。鳥が大好きで、生家のお父さんがここにだけ卸しているさつま地鶏を育てているそうです。だから、自分の好きな鶏肉を使えるわけなんですね。

逆にいえば、そこから鶏肉が送られてこなければ店は営業を取りやめにしてしまう。実際、後日に予約をしようと思って当日電話をしたら、「席は空いているんですけど、鶏肉がもう終わっちゃったんで出来ないんですよ」と屈託のない返事が返ってきたのでした。

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料理は、鹿児島の生家から鶏肉と一緒に届く野菜で作られた前菜から始まり、鳥刺し、溶岩焼き、すき焼きとひと通りを食べましたが、味の違いは刺身と溶岩焼きが一番わかるようです。噛むとじわっとした旨味があふれてくる鶏肉です。

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すき焼きは内臓も入って美味でしたが、最後の〆が面白い。スパゲッティを投入し、泡立てた全卵を入れ、トマト味に仕立てた和風カルボナーラともいうべきパスタが出来上がるのです。

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鳥鍋コースなら、じっくり煮込んだスープで脂のたっぷり載った鶏肉と野菜をいただき、最後に雑炊で〆ます。どちらも割烹料理とはいいませんが、基本の鶏肉がうまいからこそ出る味であり、ここでしか食せない料理。だからこそ、プロの料理屋なのです。

さらにいえば、こちらの酒の揃いは筆舌に尽くしがたい。焼酎は地元の鹿児島、宮崎から小さい酒蔵のものまで取り揃え、日本酒もマニアックなものが並びます。主人によれば、ワインは得意ではないとのことですが、常連のアドバイスで自然派を中心としたラインアップになっています。

店構えはいたって普通なのに、入ってみると桃源郷のような店、東京にはまだまだあるものです。

「鳥勝」
住所/新宿区荒木町16-16 ベルウッドビルB1F
電話/03-6273-2279
営業/11:30〜13:30(火〜金)、17:30〜23:00 不定休

《プロフィール》
広川道助
学者の家系に育つ。西欧で一時期を過ごし、早い時期から食の世界を志す。20代はフレンチに凝ったが、その後、日本料理の深遠さに目覚め、ここ数年は和食全般を系統だてて食することにこだわる。伝統芸能や茶道も齧るが、これまたあまりに深いので、いまだ入口あたりをちょろちょろ。昨年、若いころに通いながら、最近ご無沙汰だった料理店の主人が相次いで亡くなったのが後悔してもしきれなかったので、今年は円熟の料理人を訪ね歩き、しっかり頭に刻んでおこうと考えている。

【広川道助の〈食の王道〉】一覧記事はこちら
http://www.premium-j.jp/dousuke-hirokawa/

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