幻のカニ料理「かにばっと」を食べに岩手に行ってきました

2017.05.23

モクズガニというカニをご存知ですか?

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中国料理好きなら「上海ガニの親戚でしょ?」とおっしゃるかも。はい、その通り。サイズは甲羅の幅は7〜8㎝、体重180gほどで、iPhoneと比べるとこんな感じです。北海道から沖縄まで日本全国に分布し、沿海域から河川上流まで広く生息するカニですが、近年は数が激減しているとのこと。

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そんな幻のカニを食べに、岩手県一関市川崎町へやって来ました。以前は川崎村だったこの町は、モクズガニを使った「かにばっと(かにばっとう)」という伝統料理が有名なのです。

「はっと」とは、小麦粉に水を加えて練った生地を薄く伸ばしてちぎって茹でたもののこと。つまりは、ニッポンの手打ちパスタの一種です。これをモクズガニの出汁がきいた、根菜類たっぷりの汁でいただきます。元々は川崎町の家庭料理でしたが、カニの扱いなどに手間がかかるため、最近は作る人もほとんどいないとか…。

 川崎町は岩手県の南部、東北最大の河川・北上川を中心に抱くように位置しています。モクズガニはこの北上川に生息。昔から「二百二十日をすぎてからのカニは脂がのってうまい」と言われ、現在も9月から12月に漁が行われています。

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一ノ関駅からクルマで30分ほど、北上川のすぐ近くに『農家レストラン ぬくもり』はあります。

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ちょっと戸惑う入り口。深い杉木立にさらに戸惑い…。

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それもそのはず、レストランと名付けられてはいますが、『ぬくもり』はこの地で農業を営む千葉秀子さんのご自宅の一角にあるのです。

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挨拶もそこそこに、店主・千葉秀子さんは「作っているところも見たいでしょう?」と、調理場に案内してくれました。調理場は、母屋の手前。既にカニのいい匂いが漂ってきます。

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「生きているモクズガニのハサミと足を取って、甲羅と身をはがし、カニみそや不要物を外すの。ハサミと足、甲羅、身は布にくるんでハンマーで細かくなるまで潰します。これを3時間、水からじっくり茹でて出汁を取ったのがこれよ」。

いい匂いのもとは、この澄んだスープ!

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このモクズガニのスープに、日本酒と塩、大根、にんじん、ごぼう、こんにゃくなどの具を入れ、柔らかくなるまで煮込みます。さらに、事前に小麦粉で作った「はっと」を加え、醬油で味を調えます。

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モクズガニは岩手県北部等でも食べられていますが、調理法は焼いたり、蒸したり。このように、「はっと」の出汁に使う食べ方は岩手県では川崎町だけなのだそうです。本来は秋が旬のごちそうですが、現在は冷凍手法が確立し、一年中食べることができます。

「さぁ仕上げに入りましょうね。長く沸騰させちゃ、ダメだから」と、ネギを加える秀子さん。「最後の最後が、一番の味の秘密ですよ」。ネギがですか?

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「違う違う(笑)。これこれ、『かにばっと』のおいしさの決め手は、カニみそなの」。秀子さんが大事そうに冷凍庫から出してきたのは、旬の時期に真空パックにして冷凍した、モクズガニのカニみそ。きれいな山吹色は獲れたて同様です。鍋に加えると、さっと花開くようにみそがスープの中に拡がって、カニのいい匂いにさらに奥行きが生まれます。

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大きな器に盛り付けて、完成です。

「さぁ、できあがり。部屋で召し上がってもらいましょうね」。

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「かにばっと定食」は、「かにばっと」にごはんモノ、おかずが数品付きます。まずは、やっぱり「かにばっと」から。スープを飲むと、カニからじんわり引き出されたうま味がわーっと口中に拡がります。塩やしょう油などの調味料の味は控えめ。驚くほどのうま味の深さに、かつおや昆布など、別のうま味要素はまったく不要なことがよくわかります。もちろん、生臭みなどは一切ありません。

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おいしいスープをまとった、もちもち感ある「はっと」。「はっとはすぐにごだってしまうから、早く食べなさいな」と秀子さん。“ごだく”とは、水分が飛ぶとか水分を吸うという意味です。

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「川崎へお嫁に来るまで、モクズガニも『かにばっと』も、全然知らなかったのよ」。そう秀子さんは笑います。秀子さんは隣町の千厩出身。約50年ほど前の話ですが、距離としてはわずかでも食卓には大きな違いがあったよう。

「モクズガニを獲っていた近所のおじさん達やお姑さんに、作り方やそのコツを教わってね。でも昔のやり方では、どうしても生臭さが出てしまって……。だから色々な工夫を重ねたの」。

 透明感のあるスープを作るには、潰したカニを水から強火で煮立て、一旦白濁させながら3時間ほど煮る。レトルトパックや瓶詰めなど、カニみそのベストな保存方法を模索し、最終的には真空パックにして冷凍することに。そんな風に、モクズガニの風味を100%引きだし、生臭みを出さない手法を生み出した秀子さん。だから彼女はこれを「現代風のアレンジ」と言います。実は「かにばっと」は、彼女のおかげで洗練された一品になったんです。

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そんな秀子さんの「かにばっと」への情熱を周囲が見逃すはずがありません。平成8年、秀子さんは、岩手ならではの食文化を県内外に発信できる人材である「食の匠」に認定されました。平成28年度までに認定されたのは、259の個人・団体。秀子さんは制度開始初年度に認定された方のおひとりです。

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「おかげさまで『かにばっと』も随分知名度が上がって、イベントに出るとたくさんのお客さんが喜んで食べて下さるけれど、作り方を伝承してくれる人がいなくてね……。お客さんも今はラーメンやお肉が好きでしょう? だから『かにばっと』をどうやって次世代に伝えていくか、そればっかりが心配なの」。

「かにばっと」をアレンジしたように、秀子さんは常に時代や食べ手の好みに合わせて料理を改良していくことを厭いません。道の駅に舞茸おこわなど30種類ほどの商品を出していますが、「いま」に合わせて材料の切り方から味付けまで、少しずつ変えているそう。

おいしいものを食べて欲しい、町の味をずっと繋いでいって欲しい。その思いと努力があるから、秀子さんの「かにばっと」は、特別おいしいのでしょう。

夫・庄平さんは、秀子さんのためにモクズガニを獲って彼女をサポートしています。「かにばっと」に関して言えば、夫唱婦随ならぬ婦唱夫随。おふたりが守る町の味を、ぜひ味わいにお出かけ下さい。

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■お問い合わせ
農家レストランぬくもり
岩手県一関市川崎町薄衣字上巻121
TEL:0191-43-2721
営業時間:11:00〜14:00

◇かにばっと定食
Aコース(かにばっと、ごはんもの、お総菜3種、漬物、餅料理)1500円
※5名以上で2日前までの完全予約制。
※「かにばっと」は、「道の駅かわさき 川の灯」の『食の匠レストラン ぬくもり』でも提供しています(季節限定で、持ち帰りセットも販売)。

岩手県一関市川崎町薄衣字法道地42-3
TEL:0191-36-5170
営業時間:11:00〜15:00

取材・文・写真/木原美芽

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