エロティックな料理、食べてみませんか? いわて短角牛の内臓料理

2017.05.28

エロティックな料理って、召し上がったことありますか。姿、匂い、舌触り、味わいが官能的な。例えば、こんな皿。

「ハツのロースト マスタードソース」です。

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肉とは見るからに違う形とテクスチャー。ナイフはさっくりと入っていきながらも、一瞬身がねっとりと刃にまとわりつきます。マスタードを加えた赤ワインのソースがビロードのような衣装になってするすると口の中に入っていくと、いつまでも味わっていたくなる艶っぽくも力強い風味が拡がります。

こんなエロス満載の料理を食べに足を運んで欲しいのが、岩手県盛岡市。盛岡駅からクルマで10分ほどのところにある、イタリア料理店『ドゥエ・マーニ』です。

この料理に使われているのは、いわて短角牛のハツ。いわて短角牛は和牛4品種のひとつである日本短角種で、岩手県は日本短角種生産量日本一を誇ります。県内では岩泉、久慈市山形町、二戸、盛岡、花巻で生産されています。

例えば久慈市山形町の「山形短角牛基幹牧場」の放牧風景はこんな感じ。広大な放牧地で悠然と草を食む牛たちは、極めてのんびり屋さん。人間が近寄っても、特に恐れる様子もありません。

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日本短角種は夏は自然放牧で育てられるため、脂肪が少なく赤身主体の肉質が特徴。フレンチやイタリアンのシェフたちに特に愛され、市場では常に品薄の状況が続いています。

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「地元産であるいわて短角牛が人気なのは、とても嬉しいこと。おいしいので、僕も大好きです。でも、人と同じ料理を目指すのではなく、僕なりの味をお出ししたいなと考えて作ったのが、『いわて短角牛の内臓料理コース』なんです」。

 今回ご紹介する『ドゥエ・マーニ』オーナーシェフの小澤さんは、そう言います。1972年に岩手県釜石市で生まれ、千葉大学教育学部に進学しますが、思うところあり教員の道を目指すのを止め、飲食業に入ります。

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いくつかの飲食店で働き、イタリア料理人としての本格的なキャリアスタートは28歳と、ゆっくり。その後、親の事情で岩手に戻り、『スパニッシュライツ』支店、『ヴァンダンジュ』シェフを歴任します。独立し、『ドゥエ・マーニ』を開いたのは、2010年12月。ご存知の通り、翌年3月に東日本大震災が起こる直前のことでした。

いわて短角牛の内臓料理は、7年半シェフを務めた『ヴァンダンジュ』時代から作っていたそう。そのおいしさは既に岩手の食いしん坊たちの噂の的でした。

「でも、やはり生産地でしょう? 『短角牛なら焼き肉がいいよ』、『内臓をわざわざ料理して食べるの?』、なんて言われることも、まだまだ多いんですよ」と小澤さんは苦笑します。

 本当は、逆なのに!と県外者は思います。例えば首都圏では、いわて短角牛の肉はもちろんレアですが、それ以上に内臓なんてまったくお目にかかれません。郷土料理を“その町でしか、食べられない料理、その町ならではの料理”と定義するのならば、まさに、いわて短角牛の内臓料理はその筆頭です。

現在、この内臓料理コースを求めて店に集まるのは県外からのお客さんが多いそう。そりゃそうでしょう、丁寧な下処理に時間と手間が必要な内臓という食材を使いながらコース5000円でこの内容は、破格ですもの。ああ、灯台もと暗しなのに、早く気づいて下さい!岩手のみなさま。

「でも、止めたりしませんよ(笑)。少しずつ、伝わればいいと思っていますから」。

「レバームースのクロスティーノ」。イタリアンなら一般的には鶏のレバーを使いますが、もちろんここでは牛のものを。生クリームやバター、エシャロット、シチリア島の極辛口ワイン・ヴェッキオ サンペーリを加えています。

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一時期はレバ刺しブームで食材が品薄になった時もありましたが、今は沈静化。世の中の盛り上がりとは少し距離を置き、自分の町で生産された食材を、おいしく料理して、ちゃんと使い切ること。そんな当たり前のことを丁寧にやるのが、小澤さん流です。

「アキレス腱のカリカリ焼き」。香味野菜と一緒に煮込んで型詰めしたアキレス腱を、注文が入り次第、表面を焼き上げるひと皿です。味つけはシンプルに塩。これに野菜の甘味がじわっと入り込んで風味は極めて優しいのに、カリカリ感の中からむっちりしたコラーゲンの塊が顔を出す、そのコントラストがまた色っぽい。

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「ニョッキ 赤ワインでじっくり煮込んだテールのラグー」。タマネギやセロリと一緒に表面を焼いたテールを、オーブンでじっくり煮込み、最後はシンプルにフライパンで優しく火入れをしたラグー。これに合わせるのは小麦粉と塩、水だけで練ったニョッキ。

「岩手には、ひっつみやはっとなど、小麦粉を使った料理をよく食べるでしょう? あんな感じで、一片に薄い部分や厚いところがあって全体的に歯ごたえがあるように作っています」。

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「イタリアでは内臓料理をよく食べますよね。釜石出身ですから子どもの頃のごはんは魚中心ではありましたが、母が市場で新鮮な材料を買ってきてくれましたから、牛の内臓料理もよく食卓に出ましたよ」。

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祖父が水産加工業、父も調理師免許を持っていたというおうちで育った小澤さん。旬の新鮮な食材をよく食べていたそうで、幼い頃から知らず知らずに食いしん坊としての英才教育を受けていたのでしょう。

 震災後、今に至るまで岩手県産ジビエは一部、市場流通しておらず、小澤さんも対馬産のイノシシなどを使っていますが、状況が落ち着けば県産品を使いたいそうです。いわて短角牛の内臓料理同様、「この町だから」「この店だから」こその料理が、いずれまた生まれることでしょう。

 旅に出て、わざわざイタリアンを食べて欲しい理由。それは『ドゥエ・マーニ』の料理が、岩手の新・郷土料理になりえる存在だから。そのことが、少しでも伝わればと思います。

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イタリア料理「ドゥエ・マーニ」
岩手県盛岡市紺屋町7-16
TEL:019-681-7520
営業時間:12:00~14:00L.O.、18:00~21:00L.O.
定休日:月曜休
http://duemani.main.jp

 

★短角牛コース
・レバームースのクロスティーノ
・アキレス腱のカリカリ焼き
・ローズマリー入り自家製フォカッチャ
・ニョッキ 赤ワインでじっくり煮込んだテールのラグー
・ハツのロースト マスタードソース
・ドルチェ
・エスプレッソまたはカモミールティー 

税込み5000円
料理内容は一部変更することがあります。 

取材・文・写真/木原美芽